しばらく悩んだ末、待って誰も来なかったら洒落にならないので、タイヤを1本つぶして走ることにしました。



空気が抜けているとは言ってもまだ残っているので、走らせてみるとパンクしていることがわからないぐらい車自体はまっすぐ走ります。




しばらく走ってから停めて様子を見てみると、空気は完全に抜けきっています。このぐらい荒れたダートだと、カーブにでも入らないとパンクしたことに全然気 づかず走っちゃうかもしれません。



カーナビのスケールを広域にしてゴールに設定しているロードハウスが画面に映るようにしていますが、この状態だと進めども進めどもちっとも距離は縮まりま せん。


しばらく荒れた道を走って再び確認すると、驚いたことにタイヤのゴムがボロボロになって少し残っているだけになってしまっています。。。

あまりに道が悪くガタガタ言っているので気がつかなかったのと、想像より早くゴムが無くなったという事実にショックを受けつつ、もう一本のパンクしたタイ ヤに交換してもすぐにダメになることが判明したので、そのまま車を走らせます。



途中、名物のゲートがあったのですが、写真を撮る余裕もなく、そのまま通り過ぎます。

こ んな感じで下着がたくさん吊るしてあるやつです。(写真は別の場所の物です)




再びタイヤ(ホイール)チェックのために車から降りると、タイヤを受ける部分が無くなって、なんとホイールが一回り小さくなっちゃってます。これはまず い。。。




ここで、ふと思いつき、パンクしていない左の後輪を外して左フロントに付けて、最初にパンクしたタイヤは左後ろに付けることにします。



ロードスターのように前後重量配分5:5なんてことは無いでしょうから、パンクしたタイヤは後輪にしておいたほうが無難だろうと判断したのです。



まずは、左の後輪を取り外しにかかります。



そして、最初にパンクしたタイヤを左後部に取り付けます。幸いまだエアは残っているようです。なんとかこのままロードハウスまで保って欲しいのですが、残 りの距離を考えると楽観はできない状況です。


次はホイールだけになってしまった左前輪です。


ジャッキアップがやけに重いので、さすがエンジンの積んでる前輪は重いなぁと思いつつ、力任せに回していきます。


しかし、途中であまりに回らないので、いくらなんでもおかしいと思い、ジャッキを確認してみると、足場が悪いところでやっていたので、上げている途中で ジャッキの位置がずれてしまったようです。

不自然な角度から車を持ち上げる形になっていて、ジャッキ自身もひん曲がってますし、何よりまずいのは回す棒が知らないうちにねじ切れそうになってしまっ ています。




こんなところでジャッキまで壊れたら本当に洒落になりません。




いったんジャッキを下ろし、もう一度慎重にセッティングし直してからジャッキアップを開始します。



しかし、悲しいかな、一度ねじ切れそうになった棒は、少しの負荷でどんどんねじれて行ってしまいます。






そして、急に手応えが軽くなり、ついに棒がねじ切れてしまいました。。。







なんてこったい。。。。







あきらめきれずにもう一度かすかに残った引っかかる部分を頼りに、回してみると、かろうじて回るには回ります。



変に力を入れながら回しているので、左手の人差し指から薬指までの皮がめくれて血がにじんでますが、そんなこと気にしていられません。




祈るような気分で、慎重に回していたのですが、ついに最後の引っかかりも舐めるような形になってしまい、完全にジャッキアップツールが駄目になってしまい ました。

タイヤはまだしっかり地面にくっついて居ます。



結果、左後輪最初にパンクしたタイヤ、左前輪ホイールだけのタイヤを履いた状態で作業終了。




ほとんど冗談みたいな話ですが、ただ呆然と車を見つめることしかできません。





ロードハウスまで、まだまだ距離があります。





「とにかく行くしかない」





そう決心すると車に乗り込み、再び車を走らせます。





ハンドルに伝わってくる石を踏んだときの衝撃が、「ガタガタ」という感じから「ガチガチ」という感じに変わっていきます。



スピードは出していないはずなのですが、スピードメーターが60kmを超えています。たぶん左前輪の回転数でスピードを測っているのでしょう。



どんどんホイールが小さくなっているのは明らかなので、どこかで走行不能になるのはわかっているのですが、今は歩く距離を少しでも縮めたい一心で車を走ら せています。




しばらく走ると、再びゲートが登場しました。ゲートが半分閉まっていたので、ブレーキを踏みながら、





って、ブレーキが抜けました!!





ほとんどハンドル操作だけでぎりぎりゲートを抜けてやり過ごしました。



車を停めて降りてみてみると、ホイールは一段と小さくなっており、ブレーキホースを石か何かにひっかけてぶっちぎってしまったみたいです。




パーマンゴロードはほとんどカーブも無ければ対向車も来ないので、ゆっくり走る分にはブレーキがきかなくてもそれほど問題ないのですが、これでロードハウ スでタイヤの応急処置が出来たとしても、自走は完全に不可能になってしまいました・・・





「それでも今はロードハウスまで行くしかない・・・」




再びガチガチ状態のまま走って行きますが、ハンドルに伝わってくるショックが尋常じゃない感じです。




カーナビの目測でロードハウスまであと10kmぐらいだと思うのですが、これ以上走るとブレーキホースぐらいじゃ済まない感じです。





車から降りて、一段と小さくなったホイールを眺めながら考えます。






歩くしかないか。






意を決っすると、まずは荷物をまとめ始めます。



幸いカーナビは外してバッテリーで動かすことが可能なので、これを手に持ちます。



デジイチ2台も持っては行けないので、旧機種は足元に隠し、新機種は首からぶら下げて、あとは水とノートPC、パスポートなど最低限の荷物を肩掛けカバン に放り込んで歩き始めます。







目の前に続くまっすぐな道は実際に歩いてみると、景色があまりにも変化しないので、進んでいる実感が沸きません。




手 に持っているカーナビにはパーマンゴロード(バラドニアロード)やロードハウスの場所は表示されていないので、野原を国道に向かって進んでいる感じです。


 カーナビには現在の時速と移動方向を表示する機能があるので、それで自分が時速5km強、北方向にちゃんと進んでいることがわかりま す。

とは言っても、時 速5kmぐらいじゃカーナビの画面はまったく変化しません。拡大すれば良いのでしょうが、そうすると道が登録されていないので、けっきょく野っ原だけ (ベージュ一色)の画 面になってしまいます。




途中、昭和50年代ぐらいの古いパルサーか何かのハッチバックが乗り捨ててあったので、ジャッキか何かが落ちていないか漁ってみますが、目に付く部品はす べて抜き取られているようです。





とにかく、歩けども歩けども景色が変わりません。





30分ぐらい歩いたところで、これはけっこうな行程になるなと実感しました。





黙々と、できる限り早足で歩き続けます。





そろそろ1時間は歩いたと思うのですが、何も変化がありません。ただただまっすぐな道が続くのみです。





エミューがはるか彼方前方の道路を横切って行きます。





気温も徐々に上がってきました。(11時)





この植生ですから、やはり昼過ぎからは猛烈な暑さになるのでしょう。





パーマンゴロード(バラドニアロード)に突入した時間が早かったのがせめてもの救いです。





それでも乾燥が激しいのか、水を飲む量がだんだん増えてきました。



2時間で2リットルは飲んでしまいそうです。


(ア ウトバック走行のガイドによると、無人の乾燥地帯で立ち往生した時、車から離れるのはご法度です。真似しないでください。つまり、行くときは無線機を携行 するか、万が一目的地に限度時刻までに着かなかったときに第三者が捜索を手配してくれるようにしておく必要があります。特に空からの捜索時は車の方が発見 が早いですし、乾燥地帯を歩くと、午前中の気温の低いときでさえ、想像以上に体の水分が失われます)




カーナビが無かったら、相当不安になった、というより、そもそも歩くという選択肢はなかったと思います。





というか、カーナビ、現在位置を間違って表示していたら、洒落にならないのですが、それは信じることにします。





すると突然、




「ゴー」




という音が聞こえたので振返りますが、別に何かが来るわけではないみたいです。



ただ単に風の音が鳴っただけなのでしょうが、ついつい車が来たのかと期待してしまいました。










トカゲが道端で威嚇しています。





何度も何度もカーナビで目的地までのおおよその距離を確認しつつ、ただひたすら歩き続けます。





腕がチクッとしたので見てみると、蝿だけじゃなくてアブまで寄って来ているようです。





だんだんお腹が空いてきました。








10kmぐらいならすぐに国道に着くと思って水だけ持って歩き始めてしまったのですが、何か食べる物も持ってこればよかったと後悔します。(カップラーメ ンなど調理が必要なものだったので、置いてきてしまったのです)




木陰でしばし休憩を入れます。





1時間半ほど歩くと、さすがにカーナビの画面でもエアハイウェイ(国道)が近づいてきました。





カーナビに表示される時速が5km台から4km台後半に落ちてきました。


まさかオーストラリアで「シャリバテ」というキーワードが頭に浮かぶとは思いませんでした。



もう一度休憩を入れます。体力の消耗具合から考えて、カーナビの現在位置が間違ってさえいなければ、国道に出られそうです。




そして残り1kmを切りました。電波塔か何かが見えてきて、いよいよ国道が近づいてきたという実感がわきます。





さて、そろそろ着くかなという頃になって、ようやくエンジン音が聞こえてきました。





それも背後から。




なんと、国道にまさに出るというタイミングで背後からジープが一台やって来ました。




私の横で横で止まってくれたので、



「停めておいた車の持ち主です」



と挨拶すると



「あぁ、酷いトラブルだな」



と、ごっつい兄さんが答えてくれます。



「あと少しでロードハウスに着きますか?」



と確認すると



「あぁ、もう目の前だよ、乗っていきなよ」



と嬉しいことを言ってくれるので、



「ありがとうございます」



と、助手席に乗せてもらいました。



走りはじめるとすぐに国道が姿を表し、左折したところがバラドニアロードハウスでした。(12時)








お兄さんにお礼を言って車を降り、ロードハウスの店内に入ります。



従業員に事情を説明してレッカーサービスを紹介してもらいます。



そういう事はよくあることなのか、名刺大の連絡先が書かれたカードを渡してくれました。

公衆電話が外にあるので、そこから電話をかけます。



女性スタッフが電話で対応してくれ、場所とブレーキの故障を告げて大丈夫か確認すると、問題ないとの返事。



気温が急上昇してきて、電話ボックスに3分も立ってられないぐらいの気温になってきました。本当に間一髪といったところです。



クレジットカードナンバーを先に知らせてくれないとレッカー車を出せないとのことなので、カードナンバーを知らせ、到着時間を確認します。




到着予定時刻は夜7時。。。レッカーサービスは目的地であるアデレードとは逆方向200km先にあるノーズマンにあるようです。(あとで気がついたのです が、一昨日最後の24時間営業のロードハウスがある場所としてチェックしていた場所です)






まずは無事にロードハウスに到着し、レッカーサービスに頼むことが出来たので一安心。






一気に緊張の糸が切れました。





エアコンの効いたロードハウスに戻ると、すぐにハンバーガーとコーラを注文して一気に腹に放り込みます。



落ち着いてから店内をめぐってみると、やはり売ってました、パンク修理キット。




これを先に買っておけば。。。

いや、あと2時間待っていれば、後ろからジープが走ってきて、少なくともブレーキホースをちぎることは無かった・・・


まぁ、それよりも何よりも、どこかで一回でもリペアタイヤのチェックをしていれば・・・



座っていると、後悔の念の無限ループになりそうだったので、気分転換を兼ねて、ロードハウスの中を物色してみます。



実はバラドニアロードハウスにはちょっ とした博物館みたいなのが併設されていて、エアハイウェイ建設中の資料なんかが展示されていたりします。



レッカーが到着するまであと5時間。




さすがにその博物館で5時間はつぶせないので、後は何も出来ずに、ただただロードハウスで待つことしか出来ません。


ちなみにバラドニアの人口はwikiぺディアによると20人だとか。ロードハウス以外には本当に何も見当たりません。

(本当はここがオーストラリアで一番直線距離の長い国道(146kmのストレート)のスタート地点なのですが、私は指をくわえて見ることしか出来ません)



そう言えばと思いだし、この後走るのに持っておかなければならないパンク修理剤を購入しておきます。






ここで、一つのことが不安になってきました。




車に残してきた荷物のことです。




ほとんど誰も走っていないという想定で荷物をかなり置いてきてしまいましたが、2時間も待っていれば1台後ろからやってきたわけで、他にも車が走っていな いという保証はどこにもありません。



しかも、長い年月が経っているとは言えパーツを根こそぎ抜き取られたパルサーのことも気になります。



幸い車を置き去りにした場所はここから10km。頼めば誰か一往復付き合ってくれるんじゃないかと思い、ガソリンを入れるためにたまに入ってくる車を窓か ら見つめます。


普通車じゃ厳しいと思い、四駆に乗っている人にターゲットを絞ります。



まず最初に、ジープに乗った中年男性に声をかけました。


「$200くれたら、行ってやるよ」


と、言われたのですが、現金を持ち合わせていなかったのと、ATMが無く引き落とせなかったので、諦めました。



次にエクストレイルが入ってきたので、声をかけてみました。


乗っていたのは老夫婦でした。


事情をたどたどしい英語で話すと、辛抱強く聞いてくれたおじいさんは、


「連れていってあげたいんだけど、我々は飛行機の時間があるので、20kmの荒れた道を往復する時間は無いんだよ。すまないね」


と、丁寧に断りの返事をしました。




「わかりました。ありがとうございます」



と、お礼を言ってから、店内に戻り、再び窓側のテーブルに座ります。



すると、先ほどのおじいさんがこちらに歩いてきました。


店内に入ると、まっすぐこちらに向かってきます。



「我々はもう出発するから君の力にはなってあげられないんだけど、誰かに頼むときはこれを使うといいよ」



と言いながら紙切れを渡してくれます。


見ると、私が先程たどたどしい英語で伝えた内容が完結にまとめられて文章として書かれています。


スムーズに交渉ができるようにポイントをまとめてくれたみたいです。



「ありがとうございます!」



と、お礼を言うと、おじいさんは返事の代わりに手を上げてから車の方へと歩いていきました。



再び窓の外を見ていると、見覚えのあるトラックが一台入ってきました。



あれってもしかして・・・



財布に入れておいたレッカーサービスのカードを取り出して確認してみると、やはりそこに印刷されているトラックとまったく同じトラックです。そしてドアに はレッカーサービスのロゴステッカーが貼られています。









おぉ! もう着いたのか!! (14:30)


喜んでロードハウスを飛び出し、トラックに向かって走っていくと、荷台に古いバンが一台積載されていることに気がつきました。



運転席から60歳ぐらいで背が引く、眼光の鋭いおじいさんが降りてきます。




「おまえか?」




えらいつっけんどんな話し方です。



「そうです、私です!」



「おまえは中国人か?」



「いえ、日本人です」



「そうか。今、中国人を乗せてるんだけどな。おまえは中国語は話せないのか」



「はい。」



「なんだ、そうか。これから、この車を届けてから、ここに戻ってくる」



「あ、そ、そうですか。7時でしたよね?」



「そうだ」



助手席から車の持ち主と思われる男性が降りてきました。


背の低いおじいさんは、本部に電話で連絡するためか公衆電話に向かって歩いていってしまいました。



「タイミングベルトが切れちゃってね」


「そうなんですか。私はパンクです」


「そうなんだ。お互い大変だね」


「そうですね」



背の低いおじいさんは、そのまま運転席によじ登ると、中国人男性にトラックに乗るよう目で合図をして、何も言わずに走り去っていきました。



あんなでかいトラックでパーマンゴロード(バラドニアロード)に入って、車ピックアップしてからUターンして戻って来れるんでしょうか。




まぁ、とにかく信じて待つしかないですね。



再び10km往復してくれる人探しをはじめます。





ジープラングラーが入ってきたので、声をかけると、またしても老夫婦。


先程もらった紙を見せつつ、事情を説明すると、



「10kmぐらいだったら、大丈夫ですよ」



という嬉しい返事。



お礼を言ってから後ろの席に乗せてもらうと、おじいさんが助手席に座っていた奥さんに説明をしてくれます。

せめてガソリン代だけでも払わせてくれと頼んだのですが、断られてしまいました。




パーマンゴロード(バラドニアロード)、やはり走りにくい道です。おじいさんは慎重に慎重に車を走らせています。



対向車が一台やって来ました。やはり、それなりに交通量があるみたいです。


対向車の砂煙もガンガン上がって、もろに被ります。

ピッカピカのジープラングラーだったので、かなり申し訳ない気分です。




途中で捨ててあった部品がほとんど着いていないパルサーを発見したおじいさんが




「あの車かい?」




と、真面目に尋ねてきたので



「いえ、あれではなく、もう少し先です」



と答えます。



しばらく行くと白いエクストレイルが遠くに見えてきました。



「あれです」



と、告げると、おじいさんは車のすぐ後ろに停めてくれました。


急いで車の状況を確認してみます。


旅行鞄や後部座席に転がっていたデジイチの交換レンズがそのままだったので、ちょっと一安心。



手早く荷物を旅行鞄に放り込み、ジープラングラーに積ませてもらい、




って、デジイチ(旧機種)が無い!!




すでに車のドアロックを自分で開けてしまったので、どうやってドアを開けたのかはわかりませんが、どこをどう見ても見当たりません。車を離れるときにしっ かり場所を確認しているので、見落とすわけも無い状況なのですが、諦めきれずに、数度車の中をくまなく探してみました。


デ ジイチには買ったばかりの望遠レンズが着いていたのですが、そんな金銭的な被害のことよりも、むしろ今まで旅の苦楽を共にしてきた相棒と、こんな形で別れ ることになってしまった、というより、自分が歩くときの荷物を少し減らしたいと思ったばっかりに、あっさりと盗まれてしまったことにショックを受けて呆然 と立ち尽くします。。。


ま た、最後にデータのバックアップを取ったのがグレートセントラルロードのロードハウスなので、それ以降、望遠で写した主に動物や鳥の写真はすべて無くなっ てしまいました。(昨日はたまたま旧機種が電池切れを起こしたので、新機種で望遠系も撮影したので、動物写真が掲載が出来たのです)




言う必要も無いのに、おじいさんに



「カメラ、盗まれちゃいました」



と告げると



「カメラ? 君は持っているじゃないか」



と、新機種の方を指して返事をします。



「もう一台、あったんです・・・」


「そうだったのか・・・・」




申し訳ないことに、こんなところまで、わざわざ連れてきてくれたおじいさんまで気落ちさせてしまいました。



おじいさんは、エクストレイルの方へ歩いていくと、何やらワイパーにメモ紙をはさんでいます。



読んでみると、「この車は本日回収します」と書かれていました。


これ以上車上荒らしや悪戯を受けないように書いてくれたみたいです。


本当にありがとうございます。



ただ、カメラを盗まれたショックは相当深く、無言のまま、来た道を戻ります。







バラドニアロードハウスに到着すると、すぐに荷物を降ろします。




おじいさんは、車に積んでいたクーラーボックスを開けると、ビールを1本取り出し



「こんな事になっちゃったけど、良い旅になることを祈ってるよ」



と言いながら、キンキンに冷えたビールを手渡してくれました。




「ありがとうございます。あなたの親切は忘れません」



全力でお礼を言い、二人の出発を見送ります。



せっかく、いただいたので、気分転換も兼ねて、ビールは一気に飲み干してしまいました。
(普段は酒は飲まないですし、飲める方ではありませんが)



一応、警察に被害届を出しておくことにします。



公衆電話ボックスに警察の番号が書かれているので、そこに電話をかけ(パースの警察署が対応してくれました)、非常に丁寧でわかりやすい英語でスムーズに 報告が出来ました。




老夫婦とパース警察の優しい対応でほんの少し気分が紛れました。




とは言っても、何も出来ない時間がただただ過ぎていきます。




もし、明日の朝、順調にパンク修理とブレーキ修理が完了したとしたら、3000kmを3日間で走る計算になります。


こうなると、あとはただ車を返すためだけに走ることになりそうです。(元もとそれに近い予定になってはいましたが)




もし、ブレーキ修理が出来なかったら・・・・




いや、そんなことを考えるのは今はやめておきましょう。




インターネットキオスク端末が置いてあったのですが、残念ながら故障中。




ただただ、じーっと、夜7時になるのを待ちます。




そう言えば、夜7時にレッカー車が到着して、その後200km先のノーズマンまで連れていかれた後、自分はどうなるんでしょう?



まさか、それからすぐに修理してくれるわけもないだろうし、宿を取っておかなければならないのでしょうか?



すでにコインは尽きているので、ロードハウスで両替してもらい、公衆電話まで歩いていくと、まずはレッカーサービス会社に問い合わせます。



やはり、修理は明日の朝からとの返事。



ということは、夜10時過ぎにノーズマンに到着することになるので、その時間に開いている宿を探さなければなりません。



慌ててロンリープラネットを開き、ノーズマンの宿を確認して(ちゃんと載ってるところがすごい、というか小さいながらもちょっとした観光地のようです)、 灼熱の太陽を浴び汗をかきながら、キャラバンパークに電話をかけて予約を入れます。


感じの良い歳を召された感じの女性が対応してくれ、幸い安いコテージに空きがあったのと、受付を11時ぐらいまで待っていてくれるとのことだったのでとり あえず一安心。



あとはひたすら、夜7時になるのを待ちます。



外を出歩こうにも灼熱の太陽に炙られるだけですし、博物館はすでに2周まわりました。



考え事をはじめると「あ~すれば良かった、こ~すれば良かった」というモードに入ってしまうので、







ホットドックを食べてみたり



修理が無事に終わったら、明日からどうしようか考えるようにして気を紛らわせます。



2時間待ちの行列に並ばされたのと同じぐらい何も出来ない時間を過ごし、ようやく18時45分になりました。


このままレッカー作業が始まると、そのまま夜22時までトラックに乗っているということに気がつき、あわててハンバーガーを一つ注文します。ちなみに出来 合いのハンバーガーではなく、注文を受けてから厨房でちゃんと作ってくれます。



そこへ、



「おい! 行くぞ」



と後ろから背の低いおじいさんに声をかけられます



「あ、今、ハンバーガーを注文しちゃったので少し待ってもらえませんか?」



「待てない。今すぐ出発だ」



「でも、ハンバーガーが・・・」



「ガソリン入れるためにここに戻ってくるから、すぐにトラックに乗ってくれ」



「はい、わかりました」



レジの従業員も会話を我々の会話を聞いていたので、目で合図をして、トラックへと歩いていきます。



「10kmだな?」


「え?」


「ここから、10kmなんだな?」


「はい、ここから10kmです」



距離が重要なようです。


トラックの操縦席部分は8人ぐらいは乗れそうな大きさがあります。


後部座席によじ登って乗り込むと、すぐにトラックは出発しました。


パーマンゴロード(バラドニアロード)に入ると、予想以上にトラックが揺れます。サスが固いからでしょうか?






おじいさんは「悪い道だな」と吐き捨てるように言いながら、右へ左へと蛇行しつつ、時速30kmぐらいでノロノロとトラックを走らせていきます。




もし、10km地点じゃなくて80km地点だったら、ピックアップしてもらえたのでしょうか?





「このトラックはUターン出来るんですか?」



「あぁ、簡単だよ」



まぁ、無理だったらこんな道に入らないのでしょう。



パルサーが見えてくると、予想通り



「おまえの車はあれか?」



と聞かれたので、



「違います、この先です」


と答えます。


しばらく走って、エクストレイルに到着すると、



「降りて運転席に座って待ってろ」



と、言うので、言われるがまま車から降り、運転席に座ります。デジイチが転がっていないかついつい探してしまいますが、やはりどこにも有りません。



Uターンしたトラックが、横からエクストレイルを追い越し、前方に停めてから荷台が引き起こされていきます。そのまま、下へとスライドして降りてきて、 ちょうど前輪の前辺りに荷台の後端があたる感じになりました。おじいさん、口は悪いですが、さすがプロです。



牽引用のウインチロープを伸ばし、エクストレイルのシャーシー前部にひっかけます。



「俺が言うとおりにハンドルを動かせよ」



と、言うやいなや、ウインチを巻き上げ始めます。


左前輪はホイールしか無いので、トラックの荷台と擦れて、「ギャァァァァァァ」というすごい音がします。



「右!!!」



おじいさんが怒鳴るのにあわせて、ハンドルを切ります。



「左!   行きすぎ、戻せ!」



指をくるくる回しながらハンドルを回す方向の指示を出しつつ、徐々にエクストレイルが荷台に引っ張り上げられていきます。


「右!」


「左!  ストップ!!  戻せ!」



言われるがままにハンドルを動かします。






ようやく車を引っ張り上げると、荷台を水平に戻し、



「サイド引いて車から降りろ」



という指示に従って、車から降ります。

おじいさんは手早く、車を他のロープを使って固定し、運転席に乗り込みます。

私も後ろの席に乗り込みます。




「9.8」


おじいさんが唐突に言います。


「え?」


「9.8km。ここまで」


「そ、そうですか。」



やはり距離を気にしていたようです。




おじいさんはとても話しかけられる雰囲気じゃないので、お互い無言のまま、パーマンゴロード(バラドニアロード)を戻っていきます。



走ること20分、バラドニアロードハウスに戻ってきました。



おじいさんがガソリンを入れている間に、すぐにトイレを済ませてハンバーガーを回収に走ります。



おじいさんに「遅い!」と怒られる前に、トラックに戻ってきました。おじいさんは代金の支払いに行っているようです。



小学生ぐらいの白人の子どもがやって来ました。



「どうしたの?」



心配してくれているというよりは、単純に好奇心で尋ねて来ているみたいです



「パンクしちゃってね」


「ふ~ん。どこから来たの?」


「日本だよ」


「へぇ、、、、「コンニチワ!」」



そう言うと、走り去っていきました。


使い方、間違ってるよ。





「行くぞ」



おじいさんから声がかかります。



トラックに乗り込み、いよいよ、バラドニアを出発です。



エアハイウェイをこんな形で(しかも逆方向に)走ることになるとは夢にも思っていませんでした。






沈んでしまった夕日を眺めながら、ハンバーガーを腹に放り込みます。



トラックはメーター読みでぴったり時速100kmで走っているようです。


でっかいフォグランプが着いていましたが、あれは飾りではなくて、かなり強力なライトです。点けると、かなり前方まで明るく照らし出されます。
なので、地平線の方に対向車のライトの気配が見えると、手早くおじいさんは消しているようでした。



おじいさんが、私の右に積んである古いブラウン管テレビのことについて何か話してくれたのですが、正直何を言っているのかはさっぱりわかりませんでした。

(拾ったんだか、もらったんだか)


あと、今日この辺りで大きな交通事故があったんだそうです。




そして、22時にノーズマンの街に到着しました。


レッカーサービスのショップの前には、すでに先程運ばれた中国人のバンが停まっています。後部の窓の遮へい状況からして、彼は車中泊のようです。



乗せるときと同じように、おじいさんに「右!」「左!」と檄を飛ばされながらハンドルを切りつつ、ショップの前にエクストレイルを下ろしました。




「明日は7時半に来るんだ」


「わかりました。ところで、ゲートウェイキャラバンパーク(予約した場所)ってどこにあるんでしょうか?」


「あぁ? そんなところに行っても受付開いていないから、そこで寝ればいいじゃないか」


と言って、レッカーサービス会社の斜め前にある建物を指さします。どうやらそこはホテルのようで、たしかに受付の電気はまだ着いているようです。


とは言え、予約を入れた上に、11時まで待ってもらっちゃっているので、そうは行きません。


「予約を取っているので、大丈夫です」


「・・・・、そこを左に行って、右だよ。ここから2kmはある。悪いことは言わないからやめておけ」


「2kmなら大丈夫です、」


「・・・・、明日の朝7時半にちゃんと来いよ」


おじいさんはそう言うと、トラックに乗り、走っていってしまいました。



旅行鞄と肩下げカバン、それにデジイチを首からぶら下げた格好でノーズマンの街を歩いていきます。


もちろん、人っ子一人居ません。




歩くこと30分弱、






キャラバンパークを発見しました。



受付の呼び鈴を押すと、おじいさんが出てきました。電話で対応してくれたおばあさんでは無いみたいです。



とりあえず宿泊手続きを済ませます。エアコンが無いので暑かったら扇風機を使ってくれとのこと。あと、シャワー室の場所の説明を聞いてから、部屋へと向か います。


キャラバンパークの中は砂利道なので、でっかい旅行鞄を転がして歩くには、広いし歩きにくいです。







指定された番号が書かれたコテージに到着しました。いわゆる牽引型のキャンピングカーからタイヤを外したものです。それを、そのまま寝室として貸し出して いるようです。日本のマンガ喫茶みたいに宿泊施設という扱いにならないので、こんな形態になっているんでしょうか?







部屋はこんなんですが、料金は$20と格安です。




寝る前にシャワーを浴びてさっぱりします。




タイヤ交換で擦り剥いた手の指がヒリヒリするので、まったくもって快適ではありませんでした。




部屋に戻ると、たしかに風に当たっていないと少しだけ暑いので、扇風機を出してセットします。




ブレーキ、簡単に直るといいなぁ。




おやすみなさい。




本日の走行距離  200kmほど。 総走行距離  5200kmほど。








9日目 1月3日(土)



6時半に目覚ましが鳴りました。





7時前に鍵をポストに放り込んでチェックアウトします。







レッカーサービスに向かって歩いていきます。








立派なインフォメーションセンターもあります。もちろんまだ営業してません。







ノーズマン、ちょっとした街なんですね。









7時15分頃、レッカーサービスに到着しました。



中国人のバンに加えて、昨日の夜は見かけなかった古いカローラⅡが停まっています。(写真右)



車から降りてきた中国人の男性の方と挨拶をします。



シャッターが内側から開き、白人の若い兄さんが出てきました。


挨拶もそこそこに



「これ、今日の午前中に直りますかね?」



と、質問してみると



「今日は無理だね。火曜日の午前中には直ると思うよ」



火曜日と言えば、3日後、予定では帰国日です。




言わば終了宣告。




まるで、旅がすべて終わってしまったかのような気分になります。





諦めきれずに、


「どうしても火曜日じゃないと無理ですか?」


と、食い下がってみると、



「そうだね、月曜日にならないとパースの日産のサービスは開かないから部品を注文できないし、それから送ってもらって届くのが火曜日だから、どうしても火 曜日にはなっちゃうね」



火曜日に車をピックアップして、それから帰国という手もあるのですが、それだと合計14連休ぐらいになり、ただでさえ無理言って会社を休んでいるので、あ り得ない話です。



英単語辞書で「応急処置」を調べ、



「応急処置って無理ですか?」


と、聞いてみると


「それは出来ないよ。もし、この後あなたが事故を起こしたら、僕が刑務所に入ることになっちゃう」


若いのに真面目な顔で答えてくれたその内容に、まったくもってその通りと思いつつ


「そうですよね・・・」


と、答えるしかありませんでした。





当初計画した旅は終わったのだと自分を納得させます。





中国人のバンもタイミングベルトが届くのが火曜日のようです。


彼も宣告を受けて、しばらく呆然としていました。




想像していた中で一番最悪のケースになりました。




まずは、レンタカー会社に連絡して、車を回収してもらうしかありません。




その交渉も大変そうなのですが、それよりも、まずはここノーズマンから足が無い状態でどうやって帰国するかです。



「ここからシドニーへ行きたいのですが、どうやって行ったらいいですか?」


「ここからバスに乗ってカルグーリーに行って、そこから電車か飛行機でパースへ行ってからシドニーに飛行機で行くってパターンだね」


「そうですか。カルグーリーへのバスって今日は何時ぐらいに出発するんですか?」


「今日は走っていたかなぁ? インフォメーションで聞けば教えてくれるよ」


「わかりました」



ただ帰国するだけでも、大変だということはよくわかりました。




「すみません、後でレンタカー会社がピックアップに来ると思うので、鍵とカーナビの受け渡しをお願いできますか?」


「わかったよ。これからどうするの?」


「まずはロードハウスに行ってレンタカー会社に連絡を入れてから、バスに乗るか、それともヒッチハイクをしてカルグーリーに移動します」


「わかった。じゃぁ、ロードハウスまで送ってあげるよ」


「ありがとうございます!」



中国人男性に日本に向けて出発することを告げて挨拶をして、カローラⅡに荷物を放り込み、助手席に乗り込みます。


さすが整備工場の従業員の車。こんなに年月を経ているのに、問題なくエンジンがかかります。




「ヒッチハイクをするときは、この辺りの乾燥はすごいから、とにかく大量の水を買っておくんだ。絶対に忘れちゃダメだよ」



「わかりました」







今朝、30分近くかけて歩いた道を走っていきます。



そして、走ること3分、ロードハウスに到着しました。




「あの辺に立っていれば、カルグーリーに向かう車が通るから」



「わかりました、ありがとうございます」




本当に優しい青年です。



握手をして別れました。






ロードハウスに着くと、まずは朝御飯のサンドイッチを購入します。



従業員にカルグーリー行きのバスの時間を確認すると、



「え~っと、日曜日だったかな・・・、調べるからちょっと待っててね」


と、一旦店の奥まで行って時刻表を確認してから、


「水曜、金曜、日曜しか走っていないから、明日だね。予約しておく?」


と、優しい言葉をかけてくれます。


ヒッチハイクの可能性もあるので、


「あ、まだいいです」


と、一旦は答えておきます。



ノーズマンロードハウス、なんか笑顔の対応が良い感じです。



サンドイッチを食べ終わったところで、先程の笑顔の従業員さんに声をかけ、事情を話して、今日はしばらくここに居ることを伝えておきます。まぁ、でっかい 旅行鞄を抱えている段階で、怪しさ満点なわけですが。



「わかったよ、もしヒッチハイクするときは声をかけてよ。トラッキーが居たら声をかけておくから」


「ありがとうございます。。。トラッキー?」


「トラックの運転手のことだよ。ほら、奥の所はトラッキーが座るテーブル。ただ、週末はほとんど走ってないからなぁ」



た しかにテーブル席が置いてある場所が真ん中で簡単に仕切られていて、奥はトラッキー専用のテーブルスペースということになっているみたいです。無料の珈琲 サーバーもそこ置いてあるので、どうやらよくロードハウスの看板で出ている「珈琲無料」ってのはトラッキー向けの宣伝だったのかもしれません。



「そうですか。もしトラッキーが居たらよろしくお願いいたします」


「わかったよ。困ったことがあったら言ってね」



う~ん、親切。




しかも、先程の従業員が他のスタッフにも連絡してくれたのか、他のスタッフも



「トラッキーが居たら声をかけておくね」



と、話しかけてきてくれます。う~ん、皆優しい!





さて、まずはレンタカー会社に連絡をしなければなりません。



しかし、予想をしてはいましたが、これが大変。




まずは、パースが担当するのかダーウィンが担当するのかでたらい回しにされ、しかも、毎回


「電話をこちらからするから待っていてください」


と言われたまま、1時間後にようやく電話がかかってくるという感じなので、どんどん時間が過ぎていきます。



幸い、ロードハウススタッフの対応が素晴らしく、居心地良さ満点なのですが、ひたすら連絡待ちになるのには参りました。



まぁ、ダーウインのレンタカー会社スタッフにしても、まずはノーズマンってどこ? って感じでしょうし(ダーウインから5000km近く走ったところにある小さな村ですからね)、そこで車を乗り捨てるわけですから、向こうも対応が大変 だったと思います。


ロードハウスの事務所に居た責任者風のおばさんスタッフに状況を紙に書いて伝え、レンタカー会社との電話の時にヒアリングしてメモを書いてもらうことをお 願いしてみました。



おばさんは、私が書いたメモに目を通すと、顔を上げてこちらをまっすぐ見つめ、


「まずは、あなたが無事でよかった」


と、真剣な表情で言います。



こう言われて今更気がついたのですが、エクストレイルのリペアタイヤはずっと前から使えない状態だったわけで、まだこの程度で済んだのは本当にラッキー だったんだと思いました。場所が場所なら、時間が時間なら、同じ整備不良でも、もしエンジントラブルだったら、考えただけでも、もっと悪い結末になった可 能性は山 ほどあったわけで、そう考えれば、走行前点検ミスおよび二の手、三の手を準備していなかったことの代償はデジイチ一台と旅の途中終了ということで安い授業 料だったんだと思います。



ロードハウススタッフの優しい対応や、おばさんのこの言葉で、「旅の途中終了」ということで頭が一杯だった状態から、次の行動を起こすエネルギーがだんだ ん沸き上がってきました。


そして、おばさんがレンタカー会社のスタッフが言っていることをちゃんとメモにまとめてくれたので、最終確認は月曜日にマネージャーとするという事で、だ いたい決着が着きました。






では、いよいよ次の行動(ノーズマンからの帰国)を開始します。



ロンリープラネット、ロードマップ、そしてインターネットキオスクマシンを使用して今後の予定を考えます。



インターネットキオスクマシンはコインを入れると10分単位で使えるようになっていて、乱暴に扱われることを想定してトラックボールとゴムのキーボードに なってます。そして、これがまったくもって操作しづらいのですが、使いまくってるうちに慣れちゃいました。


こ れで、いろいろなパターン、航空会社の飛行機の料金を調べて、最終的に


(1)隣町のカルグーリーを明後日月曜日の夕方に国内便で発ち、
(2)パースで深夜に乗り継ぎ、
(3)明々後日早朝シドニーに到着し、
(4)そのまま、元々持っているチケットで日本へ向かう


という行 程に決定しました。(パースからシドニーに乗るより、カルグーリーからパース経由で乗った方が同じ便を使うのに少し安いという不思議な料金設 定になってました)

パースに早めに移動して観光するという手もあるのですが、月曜日にレンタカー会社のマネージャーと最終確認をしなければならないので、携帯の電波の届かな い場所に行くわけにもいきません。


あと、どうせパースに行くのなら、ちゃんと下調べして数日使ってゆっくり観光したいですし。


というわけで、遅くとも明日のバスでカルグーリーに移動して、明後日の夕方カルグーリーを発つ、これなら多少何かトラブルがあってもなんとかなるでしょ う。ちょっと気になるのは、カルグーリーで2日間楽しめるかどうかですが、この際贅沢は言っていられません。



そこまで決心すると、まずはカルグーリーからシドニーまでの飛行機の予約をネットで入れました。



テーブル席に戻ると斜め前に制服を着た南国系の若い男性が座って、でっかいハンバーガーを食べています。目があったので、声をかけてみます。


なんと、カルグーリーの鉱山で働いている人でした。


これまでの経緯を説明してから


「カルグーリーに行くのだったら乗せていってくれませんか?」


と頼んでみると、


「いいよ、ただ、俺がカルグーリーに帰るのは明日の午後2時だから、それまで誰も捕まえられなかったら連れていってあげるよ。まぁ、週末にエスペランスで 過ごしている人は一杯いるから、明日はたくさんの人がここを通過してカルグーリーに向かうので大丈夫だと思うけどね」


(なるほど、だからエスペランスで宿を取るのに苦労したのですね)



「そうでしたか。では、そうしてみます。もし捕まえられなくて、明日の2時にまだここに私が居たら、乗せてください」



「オッケー。ところで今日はこの後どうするの?」



「えーっと、、、」



一瞬ここで考えます。


本日無理矢理カルグーリーに行くかどうかですが、もう15時を回ってしまったので(そのぐらい時間が過ぎ去ってしまいました)、無理に行ってから現地で 宿探しをするよりも、今日はノーズマンに一旦泊まって、明日はカルグーリーへ向かうたくさんの人の誰かに乗せてもらうってのが良さそうです。



「今日はもう少しだけトラッキーを探してみて、来なければノーズマンに泊まって、明日ヒッチハイクします」


「そうか。どこに泊まるの?」


宿の方向を指指し


「そこのキャラバンパークです」


「あぁ、グレートウェスタン?」


「たぶんそうです」


「じゃぁ、おんなじだね。18号室に泊まってるから遊びに来なよ」


「はい、そうします」


「じゃぁ、俺は疲れたから、先に宿に戻るね」


「また後で」



ノーズマン、なんか良い人が多いなぁ。





結局、若い男性と別れた後も、本気でヒッチハイクしなかったこともあり、そのまま夕方を迎えてしまいました。

明日は絶対にカルグーリーにたどり着くと決心しているので(若い男性、それがもし駄目でもバスがあります)、宿だけまずは予約を入れておくことにします。


ネットキオスクでカルグーリーのYHA(ユースホステル)に予約を入れてから、ハンバーガーとコーラ2本を購入して、スタッフにお礼の挨拶をしてから宿に 向かいます。


今日は、昨日電話で対応してくれたおばあさんが受付に立っています。


夕方でまだ暑いので、今日はエアコン付の部屋に泊まることにします。(さすがに$70とちょっと高い)


すると昨日受付で対応してくれたおじいさんが出てきました。


「車はどうだった?」


と、心配そうに聞いてくれるので


「ダメでした。車はここに残していかなければならないみたいです」


と、答えると、


「そうか、残念だったな」


と、心底同情してくれます。



「はい、でも、オーストラリアは良い国ですよ。私、好きです」

(ノーズマンのロードハウスに一日居たから言えたセリフだと思います)


「ありがとう、そう言ってもらえると嬉しいよ」




「あの、ところで、ここってインターネット使えるんですか?」(WiFiの案内が出ていたので)


「使えるよ」


「あ、じゃぁ、使いたいのですが」


「使い方とかは大丈夫?」


「はい」


おばあさんが、パスワードが書かれた紙を出してきて「値段は」と言いかけたところで、おじいさんがそれを制し



「いいよ、ここは俺が払っておくから」


「え・・・」


「この旅が良い物になることを祈ってるよ」


「あ、ありがとうございます!」



またまた、親切にされてしまいました。。。








さて、今日はこんな感じのコテージです。







富士通の古いエアコンに冷蔵庫、あとバスタオル完備です。

窓にちゃんと網戸があるのが嬉しいですね。昨日の小さなコテージは窓をちゃんと開けることができなくて、風を外から入れられなかったんです。

エアコンは正直、冷たい空気が出ているのかどうか怪しい感じです。それよりも窓を全開にしたほうが手っ取り早い感じです。


ハンバーガーは半分食べたところでお腹一杯になったので、残りは台所に置いておきます。



カルグーリーの観光ポイントをネットで調べたかったのですが、パソコンはせっかく1時間分のネット使用権をもらったのですが、バッテリー残量がほとんど無 くて、すぐに使えなくなってしまいました。

そして、車が無いので、充電も出来ません。。。(車の旅なのでそういう装備で行ってました)



とりあえず、することがないので、カバンから帰りの飛行機用に買っておいた小説「剱 岳 点の記」を取り出し、読み始めます。



剱 岳は去年のお盆に縦走した場所なので地名を見れば現地の映像が頭に浮ぶのと、主人公たちが準備万端で山に挑むシーンでは「そうだよなぁ」と自分を省み、準 備不足 で敗退する(というよりも剱岳付近は当時情報がほとんど無かったので準備のしようが無かった)シーンでは大いに共感しつつ、引き込まれるように読み続けま す。




あ!  やばい、このまま読みきってしまうと、帰りのカルグーリーからの便で読む物がなくなっちゃう!




本を閉じると、コーラを2本持って、先程の若い男性が泊まっていると言っていた18号室を探してキャラバンパークの中を歩きます。


しかし、そもそも18号室なんて部屋がある数字の並びじゃありません。


受付に戻り、先程のおばあさんに


「18号室ってどこですか?」


と尋ねてみると、


「18号室は無いわよ」


との返事。


おかしいなぁ、


「ロードハウスで知り合った人に、18号室で会おうって言われたんですけど」


「それは、もしかしたら隣のグレートウェスタンの事じゃないかしら?」


「え!? そうなんですか?」



てっきり同じ宿だとばっかり思い込んでいました。









おばあさんにお礼を言うと、隣の宿に向かいます。


受付の女性に知り合いに会うことの断りを入れ、18号室の場所も聞きます。



ち なみにこちらは、休暇を過ごす人に人気があるらしく$90という値段にもかかわらず、本日は昼過ぎにはすべての部屋が埋まってしまったのだとか。(書いて いて気がついたのですが、車中泊とかドミトリーに慣れてしまったので、$90 (6000円)を高い!って感じるようになってました)



18号室に行き、ノックをすると、中からドアが開き彼が出てきました。


「お~、ようこそ。疲れて寝てて、ちょうど、今起きたところだよ」


「それはちょうど良かったです」


と、言いながらコーラを一本渡します。


「もう、夕飯食べた?」


「あぁ、はい」


「俺はこれからなんだけど、一緒に行く?」


「是非」


「じゃぁ、行こうか。その前に洗濯しとかなきゃ」


「はい」



男性は無造作に服をボストンバックに放り込むと、なぜか私が泊まっている方のキャラバンパークに歩いていくので、それに着いていきます。


シャワー施設の横にコインランドリーがあって、そこで洗濯をするみたいです。


さすが旅慣れてますね。私は洗濯することを前提にしていないので、日程分の下着をでかいカバンに入れて持ち歩いちゃってますが、このぐらいの日数になった ら、やはり洗濯を前提にした方がいいですね。





「じゃぁ、行こうか!」








再び18号室前まで戻り、彼の車に乗り込み食事に出かけます。(ここからコンデジで撮影です)



そう言えばお互い自己紹介がまだでした。



「私の名前はぎんがめです」


「俺はスティーブン。ぎんがめはどこから来たの?」


「日本です。スティーブンは何年オーストラリアに住んでいるんですか?」


「う~ん、10年ぐらいかな」


「10年、長いですね。どこから来たんですか?」


「フィジーだよ」


「あぁ、フィジーですか。海が綺麗なんですよね?」


「そうフィジーの海はすっごい綺麗だよ」


「ダイビングをしているので、いつか行きたいです」


「そりゃぁいいねぇ!」



なんて会話をしているうちに、ノーズマンの街中にあるバーみたいな所に到着しました。







自分一人だったら、絶対に近寄らない場所です。



「俺も2回目なんだけどね」



と言いながらスティーブンが入っていくのに続いて私も店内に入ります。





今日の夕日はバーから眺めることになりました。






ビリヤード







なんかスポーツで賭け事をするのでしょうか?


う~ん、大人の空間です(笑)



お客さんのほとんどは(って私含めて5名しかいませんが)、鉱山関係者のようです。


スティーブンは皆と仲良く話しています。



私も輪に入って仲良く話したいところですが、さすがに職場の話を英語でしている中には入れませんでした。







VB、名前は聞いていましたが、初めて飲みます。



それを、鉱山関係のおじさんに言うと


「そぉか、今日が初めてか。俺は今日が最後にしたいな」と言って笑っています。


毎日浴びるほど飲んでいるのでしょうね。





スティーブンはステーキ定食とレモン入りの水を頼み、さらにピザのデカイのを頼んだので皆でつまみます。


ちなみに彼はアカウントマネージャーだそうで、いわゆる鉱山で肉体労働をしているというよりは、営業職って感じなんでしょうね。


そう言えば、前から気になっていたことを聞いておきます。



「こちらの車って皆パトランプが着いてますよね」


「うん。」


「あれって、鉱山を走るときに必要なんですか?」


「そうだよ。ルールで決まってるんだよ」


「最初、あれを見てパトカーだと思って、この辺パトカーだらけだって思ったんですよ」


「あははは」(笑)



やはり、いわゆる作業灯なんですね。


しばらくしゃべったり飲んだりしていると、スティーブンが「洗濯物!」と叫んで立ち上がったので、一旦キャラバンパークに車で戻り、洗濯物を回収し、再び バーに戻ります。洗濯スペースは夜8時30分で閉まってしまうようでした。



その後少し飲んで、9時に店が閉まるというので、再びキャラバンパークに戻りました。



今日のお礼を言って、もし明日2時までヒッチハイクに失敗していたらカルグーリーに連れていってねと約束して別れました。




自分の部屋までちょっとショートカット気味に歩いていくと、スプリンクラーがあったので、回っている方向を見ながら横を通りすぎたのですが、思いのほか回 転が早く回ってきて、上半身がびしょ濡れになってしまいました。。。


急がば、回れ・・・



コテージに戻り、自分の分のコーラは飲まないで持って帰ってきたので冷蔵庫に放り込み、すっかり涼しくなってしまったのでエアコンはまったく活躍すること もなく、窓を閉めて寝る体制を整えます。



そう言えば、まだハンバーガーを半分残していたなぁと思って見てみると、見事にアリの行列が出来ておりました。仕方がないので、外のゴミ箱に直行です。




シャワーを浴びてさっぱりし、布団に飛び込みました。




眠気に誘われるがままに眠りに落ちました。




本日の走行距離 0km  総走行距離 5200kmぐらい。







11日目  1月4日(日)





目覚ましはセットしていなかったので、朝8時過ぎに目覚めます。




なんとなくエクストレイルがどんな状況になっているか(部品が届いていないので、どうにもなっていないのでしょうが)気になったので、レッカーサービスの ショップまで30分歩いて顔を出します。


車はすでにショップの中に移されているらしく、外には置いてありませんでした。



昨日は営業していた時間にシャッターが閉じていますので、日曜日は営業していないのかもしれません。

(たしか呼び出し用の名刺にはショップだけでなく携帯の番号も書かれていたので、基本、いつでもレッカーの呼び出しは可能なんじゃないかと思います)




ロードハウスに行く前に、先にインフォメーションに顔を出して、万が一の時にバスが何時に出発するのか確認しておくことにします。


一応、ちょっとした観光地なので(ウィキぺディアによると人口は963名です)、カフェやらテイクアウェイショップ、雑貨屋が営業していたのですが、とり あえず素通りします。



街外れにあるインフォメーションセンターはもう開いていたので、中に入ります。



歩くスピードだと常に数匹の蝿にたかられた状態になってしまうのですが、それらを引きつれたまま入っちゃいました。



中に居た品の良いおばあちゃんが眼鏡を指で上げながら



「あら、すごいたくさんの蝿と一緒にいらしたのね」


と、声をかけてくれます。



「すみません、お尋ねしたいのですが、今日のカルグーリー行きのバスって何時にここを出るんですか?」


「今日は16時45分ね。ロードハウスの場所は知ってる?」


「はい、(昨日一日中居たので)よく知ってます」


「そこにバスが16時15分に到着するから、それに乗るのよ。予約を入れましょうか?」


「いえ、まずはヒッチハイクを試すつもりなので、大丈夫です。バスって満席になるもんなんですかね?」


「う~ん、私はならないと思うわ」


「バスの予約は何時まで大丈夫なんですか?」


「12時まで。それ以降は予約は入れられないから、バスが到着したら運転手さんから直接チケットを買ってちょうだい」


「はい。」


「カルグーリーに行くの? 宿は大丈夫?」


「はい、YHAの予約を入れてありますので大丈夫です」


おばあちゃんは、カウンターの中からカルグーリーのガイド冊子を出してくると、YHAの場所を探してくれ(私が先に見つけたのですが)、ボールペンで丸く 囲んで場所を教えてくれました。



「気をつけてね」



と、言いながら冊子を渡してくれます。




「ありがとうございます。蝿、たくさん入れちゃって、ごめんなさい」



「シューってやるから大丈夫よ」



と、殺虫剤を撒くポーズを取ってにっこり微笑んで送り出してくれました。



再びロードハウスに戻ると、水を購入していよいよ道路に立つことにします。どうせ日曜日なのでトラッキーも期待できないですし、一般車狙いです。


その前に昨日親切にしてくれたスタッフの皆さんに、いよいよ出発することを告げてお礼を言います。


皆、気をつけてねと、笑顔で送り出してくれました。




この居心地の良さにつられて、ついついもっと長居をしたい気分になってしまいましたが、これって、バックパッカーの言葉で言えば沈没一歩手前だったんで しょうね。





にしてもノーズマン、またいつか訪れたい街です。






さて、行きますよ!







レッツ、ヒッチハイク!






一台目の車は、でっかい旅行鞄を携えた私を不思議そうに眺めながら行ってしまいました。





二台目、空冷エンジンの独特の音をたなびかせながら、フォルクスワーゲンビートルが走ってきました。



さすがに、これは乗せてくれないだろうと思いつつ、親指を立てたまま、笑顔を振りまきます。




私を通りすぎたところで、減速して道路脇に停まりました。




あれ、エンジンオーバーヒート? (超失礼)






あ!  バックしてきます。






慌てて、こちらもビートルの方へ走っていきます。



「カルグーリーに行きたいんですが、大丈夫ですか?」



「私もカルグーリーを通ってパースに行くところですよ、どうぞ。」







帽子を被った紳士が笑顔で答えてくれました。




つづく

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