8月10日(水)
夜中に一度目が覚めたタイミングでツェルトから頭を出して空を見上げてみました。
(ツェルトは私が普段使っているテントと違って出入り口がちょうど頭の上にあるので、これがやりやすいのは嬉しいのですが、ストックとロープがちょいと邪魔です)
空は雲一つ無い天気になっており、普通に天の川が見えていました。
この後、明るい月がほとんど一晩中出っぱなしになる関係で一度も天の川を見られなくなるとは露知らず、2〜3個流れ星を眺めて満足して頭を引っ込め、再び眠りに落ちました。
目覚ましが鳴る前に目が覚めました。(2:00)
昨日の経験から慣れない完全撤収までに2時間近くかかると思っていたので、ボチボチ朝飯の準備を始めます。
ライトを点けるとツェルト内がびっしょり濡れていたので、夜中ににわか雨でも降ったのかと思ったのですが、実は結露でした。
ツェルトの結露は酷いと聞いては居ましたが、ここまでとは思いませんでした。(一応透湿性が少しはあるタイプを購入したのですが、気休め程度ってことです。まぁ、私は普段から結露には比較的弱いシングルウォール(ゴアテックス)テントを使っているので、これはあまり気になりませんでした。ダブルウォールテントを使っている人だと不快に感じるかもしれません)
雨対策でダウンの上にカッパを着ていてちょうどよかったです。
アルコールストーブは音が静かなのでキャンプ場向きだと思いました。(中高年パーティーによっては豪快に「ゴォォォォォ」っとバーナーの音を轟かせつつ、早朝から大きな声でしゃべり始める人たちも居ないではないですが)
食料計画通りスバゲティを作ったわけですが、今更(登山初めて6年目)ながら標高が高く沸点が低いとスバゲティが煮えるのにえらい時間がかかって、その分燃料を消費してしまうことに辟易します。味は美味しいんですけどね〜。長期縦走用の朝食メニューはちょいと見直さなければなりません。

早ければ4時ジャスト、遅くとも4時半には出発するつもりが、撤収が完了したのが4時45分。慣れていないとは言え、これは時間がかかりすぎです。
(写真は小屋付近から眺めた富士山)

あまりにも出発が遅くなってしまったので、こりゃ体の調子云々以前に雷雨が来る前に百間洞到達は無理かなぁと思いつつ、まずは稜線を目指して登り返します。
(やはり、登る途中で眺めていた富士山)

稜線の遥か向こうに聖岳を望みます。

というか、このコースの場合、常に望み続けます。
大迫力の勇姿を拝み続けるというよりは、「手前でがっつり2200m台まで下って、延々3000mまで登り返すのは十分わかったよ!」
と、言いたくなる光景ではあります。

しかも、すっかり存在を忘れていたのですが、手前には上河内岳(2803m)も堂々と鎮座しております。
こっちもけっこう高いなぁ。

この区間のアップダウンが激しいのは去年歩いたのでもちろん知ってはいましたが、実は聖岳の先も延々とすごいアップダウンが続くという実感はまだこの時にはありませんでした。
酷い比べで言えば、この日は快晴ですし、展望の素晴らしい稜線歩きなのでまだマシな方なわけです。

そんなことは露知らず、歩いた道を振り返って昨日、一昨日の出来事を懐かしく思い出します。
去年は「ただの周囲の山」にしか見えなかった加加森山も池口岳も、今なら感情を伴ってはっきりと判別できます。
前を歩いていたおじさん(昨日隣にテントを張っていたクマおじさん)は聖岳がガスる前に登りたいと言うことで先を急がれて行ってしまいましたが、私は律儀にピストンで上河内岳に立ち寄ります。(去年はピストンコースだと知らずにザックを担いだまま頂上まで行ってしまったのでした)

上河内岳の山頂です。
メインのコースから少し外れたところにあるマイナーな山(とは言っても200名山)ですが、意外なことに私以外の人が山頂に居ました。
その方もすぐに降りて行かれたので、結局一人っきりの山頂を堪能しました。

しかし、去年苦労して歩いたせいで、「これぞ静かな南アルプスの山頂!」と景色を楽しむと言うよりは、この先の行程の辛さの方にどうしても意識を持って行かれます。
知らぬが仏、知らなきゃよかったとはまさにこのこと。
さて、今日は空気も乾燥してますし、もしかしたら私もガスる前に山頂に立てるかもしれませんので、そろそろ先に進みますか。
(予定では11時前後到達、普通なら余裕でガスってる時間帯なので過度な期待はできません)

なんて期待を一瞬で吹き飛ばすかのように、急にガスのカーテンに稜線が覆われ始めました。

う〜む、これはこれで綺麗なんですけど、今日も早めにガスっちゃうんでしょうか?
であれば、聖岳に急ぐ必要も無いので、ゆっくり進むのみです。

上河内岳から南岳(隣の小さなコブ)までの間は「いかにもアルプスの稜線」という感じがして、気に入っている区間です。

高山植物もたくさん咲いていて、今年も目を楽しませてくれました。
さて、いよいよ2200m台まで下りますよ。

下るにつれ、みるみる聖岳の山頂が相対的に高い場所へと上がっていきます。

兎岳避難小屋泊に備えて十分な水を確保しておきたかったので、聖平小屋に立ち寄ります。
ちょうど、クマおじさんが小屋に荷物を置いて軽量装備で聖岳に向かうところでした。
いいなぁ、軽量ピストン。
兎岳避難小屋にはトイレも無いはずなので、ここで済ませてから宿泊分の水を汲み、ついでに頭も水洗いさせてもらいます。(シャンプーとか石鹸は使ってないので気休めではありますが)

せっかくザックを下ろしたので、茶臼小屋で準備してもらった弁当を取り出すと、お稲荷さんが2個だけ入ってました。(昨日メニューは聞いて知ってましたが、もうちょっとデカいと思ってました)
去年食べた聖平小屋の弁当もおにぎり2個でしたから、この辺の小屋で出される弁当はこんなもんなんでしょうね。
やはり、小屋の弁当に全面的に頼り切る食糧計画にしなくてよかったです。
って、これだとこの先の聖岳への登りで明らかに燃料不足を起こしそうな予感がします。
途中で補給できる方が気分的に安心なので、まずは半分だけ食べてから、残りはザックにしまいました。
ほんのちょっと立ち寄るつもりが、なんだかんだと、分近くも長居してしまい、慌ててザックを担いで出発します。(8:50)

ありゃ、気温が上がってきたら、またレンズが曇っちゃいました。

デジイチ使用は諦め、コンデジ片手に登っていきます。

易老渡からの登山道との分岐です。
よくよく考えたら、去年聖岳に登ったときは私もここに荷物を置いて軽量装備でピストンしているので、本当の辛さはまだ知らないのでした。
恐ろしや〜。。。

あ、デジイチレンズの曇りが取れた。(同じ場所で同じように撮影)

気のせいか、こんなところですでにおいなりさん1個を消化しきった気がします。

空腹を感じてから15分後にはシャリバテ症状が出てくるのですが、せめて小聖岳(手前のコブ)までは登ろうと、息を切らせながら足を前に進めます。

ふぅぅぅぅぅぅ、やっと着いた! (10:05)
即行でお稲荷さんを平らげたのですが、それだけでは満腹感を得られず、行動食(煮干し、ナッツ、バナナチップス、野菜チップス、シリアルバー、ぶどう糖)を次々と腹に放り込み、足を伸ばして10分ほど休憩します。
(10分経つのが早いこと、早いこと、、、)

再び登り始めたところで年配のご夫婦が下ってきたので、この先の水場が使えるかどうか確認したところ、「今日は大丈夫ですよ」と言いながら今汲んできたであろうペットボトルを取り出して見せてくれました。
お礼を言ってから先に進みます。

去年はこの水場はちょろちょろとしか出ていませんでしたが、今年は使えるみたいでした。
聖平小屋の水は「キンキンに冷えているわけではない」ので、聖岳山頂までの登りに必要な分だけここの水と入れ替えます。
しかし、これが大失敗。
冷たいは冷たいのですが、少し酸味と苦みがある水でした。
(全行程の水場で変な味がした水はここだけのような気がします。ここ以外は全て「サントリー南アルプスの天然水味」です。

♪おっもっい〜、こんだぁ〜らぁ〜、し〜れん〜のぉ〜みぃ〜ちぃ〜ぅお〜〜、
という歌がとても似合う日本の山は白馬の大雪渓と聖岳の最後の登りだと思います。
ひいひい言いながら登っていたら、途中で飛ぶような勢いで下ってくるクマおじさんとすれ違い、挨拶しました。
山頂付近がなかなかガスらないので、ペースを落とすわけにもいかず、結局(自分なりの)全速力で登ってしまいました。(山頂ガスったら、もうどうでもいいので、ゆっくり登れるんですけどね〜、贅沢な話です)

やったぁ〜、晴れてるうちに山頂に着いた〜! (11:35)
やった〜、これで本日のきつい登りは終了だぁ!

やった〜〜、ザックから適当に取り出したコモパンがイチゴジャム味だった〜〜!
百間洞? う〜ん、無理無理!
ここで30分休んだら、後はちょっと下ってから兎岳避難小屋に移動して、今日もガッツリ休むのだ!
そして30分後。

兎岳まで行くのに一度ガッツリ下るんじゃん!!
写真の団体さんとすれ違うときに、メンバーのおじさんが満面の笑顔で、
「ここから先の行程は道が悪いし大変だよ〜」
と、私の気持ちは百も承知という感じで、尋ねてもいないのに親切に教えてくれるのでした。。。

そして、おじさんが教えてくれたとおり、道の状態は良くないのでした。(下りはザレザレ、登りは岩場混じり)

そして、ここが鞍部かと思ったところが「偽鞍部」だったりして、下るだけでもけっこう大変なのでした。
聖平で終わったと信じていた私にとって登りの大変さは言わずもがな。。。

ようやく兎岳山頂直下の避難小屋独標の前に到着しました。(14:00)
雷雨がすぐに来るという気配はまったく無いのですが、体力的にはすでに限界です。
聖岳の山頂で半分決めてましたが、水もちゃんと持ってきましたし、やはりここで宿泊決定です。
って、標識はあるのですが、どこに避難小屋があるんだろう?
まさか、冬に雪崩で流されたってことはないですよね・・・・

と、周囲を探していたら、それらしき構造物を発見。
明らかな人工物とは言え、とても小屋には見えなかったのですが、場所はまさにここであっているので確認に向かいます。

これでした。
ドアがひん曲がって閉まらない(閉めた状態で固定できない上にドア自身がひん曲がっているので真ん中に豪快な隙間ができている)状態になっていて宿泊に使えるのか不安になったのですが、恐る恐るドアを開けてみると、、、

改装したばかりということもあり、中は想像以上に綺麗なのでした。
写真なので明るく写ってますが、採光面積が極端に少ないので、中は薄暗くて肌寒いです。
このときは気がつきませんでしたが、部屋の隅に簡易トイレが山積みにしてあり、「使った人は持って帰ってください」という張り紙がしてありました。
これは後で聞いた話なのですが、改装前の兎岳避難小屋の中は(汚い話ですが)糞尿だらけだったそうです。というのも、基本急な悪天時に緊急避難場所として使われる小屋なので、もよおしても外でいたすことをせず、一人が中でしてしまうと、その後も中でする人が続出し、すさまじい状態になっていたのだとか。
(中に一応トイレはあったという話ですが、そこも含めて酷かったらしいです)
最悪そんな状態だった場合は小屋前のスペースにツェルトを張ろうと思っていたのですが(2張りほど張れるスペースがありました)、改装後は皆さん綺麗に使われているようでした。
というわけで、快適に一晩過ごすことができそうでよかったです。
さて、今日は雷雨の気配も無いですし、本格的にガスりもしないので、濡れっぱなしになっていたツェルトとエマージェンシーブランケットを取り出し、小屋周辺のハイマツの上に広げて乾かします。
濡れっぱなしの靴も全部バラして乾かします。
(サンダルとか気の効いたものは持ってきていないので、足は裸足のまま石の上に置いてます)
乾かしながら地図を広げて明日の行動計画を考えます。元の計画にリカバリーするとしたら、全日程の中で一番コースタイムが少ない設定になっていた明日しかチャンスはありません。
(そういう意味では今日もかなりチャンスだったのですが・・・)
コースタイムの足し算をすると、明日計画していた分が6時間45分、それに本日歩けなかった兎岳避難小屋から百間洞までの分(約3時間)を足して10時間弱。これなら十分狙えるレベルです。
逆に明日を逃すと、予約を入れている仙丈小屋まで毎日コースタイムで10時間前後の距離を進む計画になっているので、もうリカバリーは不可能です。
問題は南アルプス特有の激しいアップダウンの存在。
北アルプスでのコースタイム10時間分は問題無く歩ける自信があったのですが、そんなものは本日の行程で軽く吹き飛ばされてしまいました。
易老岳から聖岳までは去年歩いていたのでたいして地図も見ずに歩いて、最後に驚かされた得こともあり、明日の行程についてはどのぐらいのアップダウンがあるのか慎重に調べてみます。(旺文社の地図は等高線が追いかけづらく、標高がわかりにくい!)
えーっと、、、まず最初に大沢岳(2800m級)に立ち寄ってから一度百間洞山の家(2400m弱)まで下って、再び南アルプス主峰の赤石岳(当然3100m超)まで登り返し、またまた2600mぐらいまで下ってからさらに荒川岳(こちらも3000m級)に登り切る、、、、
「知らなきゃよかった!」
まぁ、でも、明日しかチャンスがないというのは間違いのない事実なので、チャレンジするしか無いですね。とにかく早朝出発が必須です。(そういう意味では撤収が楽な避難小屋泊は有利です)
計画を決めた後は、話し相手すら居ない状況なので、持ってきた本を取り出し、読書をしながら時間を過ごします。

そして、縦走2回目のカレー。(あとは赤だし味噌汁)
今日も美味しく頂けました。
(お椀が薄いチタン製で手に持てないぐらい熱いので、そのままコッヘルの中に入れて使ってます。今回、お湯を使うシーンが多いので、コッヘルは全行程で湯沸かし専用で使い、料理で汚れないようにしてます)

避難小屋の周囲は展望が効かないのですが、先ほどの独標まで戻ると聖岳が正面に見えるので、ここに陣取ってガスが流れる様を眺めてました。

う〜ん、流れる雲は見飽きないですね〜。

兎岳の山頂方面はガスってるみたいだったので敢えて登らなかったのですが、今思えば夕日を狙って登っておけば良かったです。(山頂には10分ぐらいで着くので)
いよいよ暗くなってから小屋に戻り、本を最後まで読み進めてから懐中電灯の電気を消しました。
ドアはひん曲がって閉まらないのですが、カマドウマどころか、ほとんど虫の入ってこない静かですばらしい環境でございました。
あ、でも幽霊なんかは入ってきそうですので霊感の強い人はご注意を。
では、お休みなさい。

登り累計 1485m
下り累計 1185m
移動距離 10km
つづく