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1月2日(月)




午前3時に目が覚めたので外に出てみました。


星がすごい出てるっぽいのですが、なんせ施設内に街灯が多すぎて、せっかくの満天の星空が望めません。



街灯の影になっている場所に行ってみたりしたのですが、天の川が見えるか見えないかぐらいな程度です。


ここの実力はそんなもんじゃないだろうと、建物の外に出ようと思ったら、門がきっちりと施錠されていて外には出られなかったので(これはこれで安心なわけですが)諦めました。


元々の予定では本日チリポ山に登っているぐらいの日程だったので、もしそちらの選択肢を取っていたら山小屋から満天の星空を望んでいたかもしれません。
そんなことを考えながら部屋に戻り再び少し寝ました。




朝食はコモパンを焼いて頂きました。(5:15)


集合時間の6時になったので受付前に車を停めます。



すると、アジア人の夫婦が歩いてきて、さも私が日本人であることを知っていたかのように男性の方が


「おはようございます」


と、日本語で声をかけてきました。


どうやら、彼と彼の奥さん(二人共アラフォーぐらい)も今回のケツァールガイドツアーに参加のようです。


お二人も積極的に話しけてくるような方ではなかったので、こちらも特に話しかけることはせずにその場で待機しました。(もしかしたら私が話しかけるなオーラを出していたのかもしれません)


6時にガイドさんが来るはずなのですが、それっぽい人(きっと三脚つけたスコープを肩に担いでくるはず)が現れないので、そのまま待ちます。



車が足りないぐらいですから、もっとたくさんの人が参加するかと思っていたのですが、もう集合時間を過ぎているにもかかわらず我々三人の他に参加者っぽい人は集まって来ません。



しばらくすると、息を切らせた風体の良い白人の男性が肩に三脚とスコープを担いで登場し、我々に軽く挨拶するとすぐに受け付けに入り、何やら事務手続きをしてから再び我々の前に現れました。


どうやら、彼がガイドさんのようです。簡単な自己紹介をしたあと(ガイドさんの名前、はっきりと聞き取れなかったまま最後まで確認しませんでした)


「ケツァールなんですが、無料で観察できる場所と、入るのに5ドル必要な私有地でここ最近ペアが観察されている場所と2ヶ所候補が有るんですがどちらが良いですか?」


と、質問されたので、迷うこと無く


「5ドルの方で」


と、先に答えちゃってからご夫妻にも確認を取ります。


男性の方は英語で理解していたのですぐに賛同してくれたのですが、女性は聞き取れていなかったらしく、状況を確認してから、ガイドさんに3人の意志として改めて5ドルの方をお願いしました。



さて、早速出発するわけですが、なるほど、ガイドさん、自ら小走りで来ただけあって車を持ってないんですね。


というわけで、ジムニーに大人4人(一人は体格の良いガイドさん)が乗り込みます。


ご夫妻には後部座席に座ってもらい、体が大きい&道案内役のガイドさんに助手席に乗ってもらいました。


ここから5分ほどで到着するらしいので、狭い車内ですがしばらく辛抱してもらいます。



ガイドさんの指示に従い、門を出てから昨日走った道を戻るように進みます。


後部座席の女性から「車を出してもらっちゃってどうもすみません」と「日本語」で話しかけられたからかどうかはわからないのですが、いつの間にか左車線走行モードに入っていて、まぁ細い砂利道だし誰も気がついてないかとおもいきや、ガイドさんが小さく十字を切ってブツブツ唱えているのが視界の片隅に入ってしまい苦笑いしました。


ガイドさんに「そこを右に」と言われて、分岐を枝道に入ります。




この木の橋、かなりぼろぼろなので踏み外せないんだろうなぁと思いつつ、タイヤを木の板に乗せた状態をキープしつつ渡ります。(久しぶりに運転でちょっと緊張しました)




駐車場に到着すると、すでにバンが2台ほど停まっていて、なんだかんだで我々は出遅れた感満点の状態でした。



最初に駐車場でガイドさんからケツァール観察のポイントと注意事項の説明を受けます。


なんでも、かなり臆病な鳥らしく、一旦現れたらガイドさんの指示があるまで絶対に近づいても動いてもダメなのだとか。


そのへんはダイビングで大物観察するときのルールと一緒ですね。


って、思った瞬間、ダイビングでの「狙った物外し」の自分の性を思い出し、急に嫌な予感がし始めます。




ケツァールを見るためだけに高い金払ってホテルに宿泊してまったというこの状況、これでケツァールが出なかったら、洗濯するのに重宝したぐらいで、ホテル代+私有地入場料5ドル+ガイド代がまるまんま無駄になってしまいます。(ちなみにガイド代も「プライベートガイド」扱いですから、かなり良いお値段です。さらに言うと、この宿は事前にエクスペディアで抑えていたのですが日程変更でキャンセルせざるを得ず、キャンセル代が100%だったので高い宿代×2倍払っちゃってます)



ということもあって「ここに宿泊してガイド代払えば普通に見られるんだろう」ぐらいに思っていたのですが、「幻の鳥」とか呼ばれていることを思い出し、見たいという自分の気持を自覚して急に自信が無くなって来ました。



そんな不安を心の奥底にしまいつつ、皆さんの後を歩いてポイントに移動します。(6:20)



どうか、あっさりと出てきてくれますように・・・





ポイントに到着すると10名以上の人(すべて白人の方々)がすでに方々で待機状態でした。


それを見たガイドさんが


「今は居ないみたいですね。あそこにいる人達が誰も双眼鏡を覗いていませんから」


と、「居ない」宣言をします。


ますます嫌な予感が募ります。



そんな不安な気持ちを知ってか知らずか、ガイドさんがケツァールの生態や観察のポイント、そして本日の目的が尾羽根の長いオスのケツァールを見つけることだということを説明します。

目の前の斜面が畑でその中腹にアボカドの木が生えていて、ケツァールはこの時期そこによく飛んでくるのだそうです。


そのアボカドの木の周囲には先客たちが陣取っていることもあって、我々は30mほど下に立って見上げている状況です。


あんなに人に囲まれている状況じゃ飛んでこないんだろうなぁ、と漠然と思いつつ、陽の当たり始めた谷間の地形を見渡していると、ガイドさんがスコープをセットし始めました。


周囲の山々を順番に覗きながらケツァールを探しています。




場所を少し移動して先ほどのアボカドの木に向けてスコープをセットしているのをぼーっと眺めていたら、、



「ケツァールが来ました。覗いてみてください」



と、言うでは無いですか!



やったぁぁぁ!





「メスのケツァールがアボカドの木に飛んできました」




という次の言葉でテンションがほんの少し落ちるのを感じつつ、それでも坊主よりは100倍マシだと思いながら、ご夫婦に先にスコープを除いてもらってる間に持参の双眼鏡でアボカドの木を眺めてみました。



ん〜、どこに居るんでしょう?




というか、ガイドさん、いつの間に見つけたんでしょうか?
(さすがです)



木の周辺に立っている人が一点(望遠レンズで写した上の写真でほぼ中央)を見つめているので、たぶん見つめている先に居るのだと思いますが、背景に溶け込んでいてよくわかりません。




スコープを覗く順番が回ってきたので覗いてみると、たしかにケツァールのメスが見えています。




へぇ〜、メスはこんな感じなんですね〜。




では、超望遠で証拠写真をば・・・





まず、ファインダー内に収めるのに一苦労。。。

(ラ・セルバ以来の悪戦苦闘です。逆にあそこで苦労していたからこそ、まだなんとかファインダー内に収められたわけですが)




ぬぉ〜、日陰で暗いので手ブレする〜〜〜。(6:50)




撮影を済ませた後もしばらく眺めていたのですが、アボカドの木の周囲にいる人も(雌だったからかもしれませんが)興味関心を示さなくなってきたようだったので、ガイドさんに一言断りを入れて、私もアボカドの木の近くまで行って眺めて見ることにしました。


驚かさないようにかなり遠回りしつつ斜面を登っていきます。


まずは木の反対側に回りこみ、あと10mぐらい近づいたら観察しようかなと思った次の瞬間、飛んでいってしまいました・・・

(って、私のせいですかね・・・)



再び斜面を下りガイドさんに合流します。



さて、坊主はなくなりました。(帰国後に「私はケツァールを観た!」とは言えます)



後は本命のオスに出会えれば万々歳です。


頼む、出てくれ〜。




すると、



「ピイーッピィ、、、ピイーッピィ、、、」



と、突然鳴き声がしたので、もしやケツァールの鳴き声か!と思ってガイドさんを見ると、ガイドさんが口笛を吹いています。


オスがメスにアピールするときの鳴き声らしく、近くにオスがいれば対抗して鳴き始めるのだとか。





「ピイーッピィ、、、ピイーッピィ、、、」





「ピイーッピィ、、、ピイーッピィ、、、」





小さな谷間にガイドさんの口笛が鳴り響きつつ、時間だけは過ぎていきます。



今回もやっちまったかなぁ、と、思いつつどこに居るかもわからないケツァールのオスを自分も双眼鏡を使って探してみました。



すると、ご夫妻の奥さんが、



「あの、ぎんがめさんですよね?」



と、まだ名乗ってもいなければ自己紹介すらしてない状態で名前を呼ばれたので目を白黒させていると、


「ゴジツアーズのカセさんからお名前を聞いてまして、ここに来るまでにいろいろなところを回ってるはずだから話を聞いてみるといいよって」


「あぁ、そうだったんですか。ここに来るまでにラ・セルバとコルコバードは行って来ましたから、もし何かわからないことがあればなんでも聞いてください」



なんて話を奥さんとしていた所、



「ピイーッピィ、、、ピイーッピィ、、、」



ん? この鳴き声はどこから?


あきらかに違うところから声が聞こえてきたので、期待に胸膨らみつつガイドさんの方を見ると、



「ん〜、他のガイドが口笛吹いたのか、本物のケツァールか区別がつかないんだよね」



と、苦笑いしてます。

そうですか・・・・



「皆さん、朝ごはんはどうされますか?」



と、ガイドさんが腕時計を確認しながら尋ねてきたので、こちらもどう返事していいか困っていた所、



「今日はなかなか現れないみたいですから、一度ホテルに戻って朝食を取ってから、再度探すのが良いと思うんですが」


と、提案されます。


あ〜、これは敗戦ムードなんだろうなぁと思い、ひとまずその提案に乗ることにしました。



と、突然視界の片隅に尾の長い鳥が飛んでいるのが見え、あっという間に山服に消えて行きました。


はっきりと認識できたわけではないのですが、たぶんケツァール(のオス)だったと思います。


ご夫妻の旦那さんや他のパーティのガイドさんも見ていたらしく、たぶんオスが飛んできたのだろうという話になり、一斉に場が慌ただしい雰囲気に包まれました。


しばらくその場から双眼鏡で必死に探してみたのですがまったく見つかりません。(居るってわかってるアボカドの木に停まっていたメスを見つけられなかったぐらいですからね)



しばらくして、林の中から、



「ピイーッピィ、、、ピイーッピィ、、、」



と、鳴き声が聞こえ始め、私も生まれてはじめて聞くわけですが、明らかに本物の鳥が鳴いているように聞こえました。


なるほど、これがオスのケツァールの鳴き声なんですね。



旦那さんはメモ帳を取り出して何やら記入しています。私がボイスメモを残しているように旅の出来事を忘れないようにしているのでしょうか。



しばらくその場で探していたのですが、ガイドさんの判断で、ケツァールが飛んでいった山の麓まで降りて見ることになりました。


他のパーティはすでに山の麓に到着していて、別パーティのマッチョなガイドさんがお客さんを連れて川を渡って山の斜面の中へと入って行きました。


我らがガイドさんは、もう一人のおじさんガイドさんと情報交換しながら、今はまだここに残ることに決めたようです。
(その後しばらくしてマッチョなガイドさんも戻って来られましたが、出会えずじまいだったみたいです)




その後、我々のチームは川の少し上流にある一本の木の前まで移動しました。




「これがアボカドの木です」




と、紹介してくれたのですが、ここにケツァールが来ないと意味がないんだよなぁと、思いながら眺めていると、それまで無口だった旦那さんのテンションが急に上がり、



「あ! 実がありました!」



と、実の成っている場所を私にも教えてくれました。



なるほど、これがケツァールが餌にしているアボカドの実なんですね〜。




さらに、旦那さんはアボカドについての質問をガイドさんに積極的にしていたりと、もしかしてこの人はケツァールよりもアボカドに興味があるんじゃないだろうかと思いながらぼんやりと会話を聞いていた所、別の場所に居た他のグループが騒然となり、どうやらケツァールのオスが斜面の上に飛んで行ったらしいという話が伝えられます。



というわけで、3パーティーとも斜面の上に上がることになりました。



1パーティは斜面の最上部に、2番目のパーティは中間ぐらいに、我々のパーティは一番下(我々にとっては最初からずーっとこの場所が定位置)に陣取って、3人のガイドが120度ずつ3方向を確認する形でケツァールを探します。


なるほど、この連携なら見逃すことは無さそうです。最初のメスのケツァールもガイドさん同士でサインを送り合っていたんでしょうかね。



しばらく、その体制で待機した後、結局2番目のパーティも我々のパーティも斜面の一番上まで上がりました。


ケツァールに会えるんだと思うと、下ったり登ったりもまったく苦になりません。



というわけで、斜面の最上部まで張り切って上がってきたわけですが、だからといってケツァールが居るわけではありません。



早く現れないかなぁと思いながら待機していると、またもやガイドさんたちが慌ただしく動き始め、



「下に飛んだ!」



という、話になり、再び下に下ることになりました。



「我々は遊ばれてるみたいだ」



と、マッチョなガイドさんが冗談っぽく笑います。


山の麓の川のところまで下ってきたのですが、旦那さんは坂の途中で足を止め、それに従って奥さんも少し下ったところで足を止めました。

私とガイドさんは川の手前まで下り再びケツァールが現れるのを待ちます。


そして、数分後、



「ケツァール!、オス!、オス!」



と、旦那さんが突然背後で叫ぶので振り返ると、旦那さんは私の頭上を指さしています。

慌てて振り返りながら見上げたのですが、見えたのは木の葉っぱと空のみ。


奥さんも見えたらしく、


「すごーい! 綺麗!」


と、喜んでいます。


内心、やっちまたーーー!と、思いつつ、過去のダイビングで「グループの中で自分だけ見られなかったリスト」が走馬灯のように頭に浮かんでは消えていきます。



あぁ、旦那さんが立ち止まった時、自分も一緒に立ち止まればよかった。。。


って、言うか、きっとガイドさんも見てないんだよなぁ。。。



もう見られないと決まったわけでもないのに、あまりに過去の経験からあり得る展開でイベントが進んでいくので意気消沈しつつ、別グループのガイドからの情報で再びケツァールが山腹で上の方に飛んだらしいので、ガイドさんの後ろに着いて、つい先程見ていた川の上流のアボカドの木の方に歩いて行きました。





つづく