マレーシアのジャングルにて








ジェラントゥートという地方都市のホームステイを早朝に出発し、広大なジャングルの広がるタマンネガラ国立公園に向かった。

ホームステイは文字通り民家をそのまま使わせてくれる宿で、この時の客は私一人だったので家一軒に一人っきりで泊まっていた。対応してくれたオーナーは親 切な中華系シニア夫婦だった。
(オーナーのシニア夫婦は別の場所に住んでいるので最初の受付時にしか顔を合わせない)

マレー半島で大自然が残っている場所は軽く調べた範囲ではここぐらいしかなく、ここだけは行こうと出発前に決めていた。
(大自然が売りのボルネオ島は真逆。私の趣味なら普通ボルネオ島をチョイスするところだが、そこは連れも行きたいって言っていたので後の楽しみに取ってお くことにしていた)


出発前日に買った地球の歩き方(アジアエリアは情報密度が濃く意外に使える)にブンブンという動物観察小屋に泊まるのがおすすめと書かれていたので、一も 二もなくブンブンに泊まることに決めた。さらにネットでブンブン情報を調べてみると「水曜どうでしょう」のロケ地になったらしく、日本人の訪問者もそれな りに居るようであれこれ情報は出ていたので参考にさせてもらった。

ただ、地球の歩き方でおすすめと書かれている割には、ブンブンに泊まるのはわりとハードな状況のようだったが、まぁ、北アルプスの山小屋レベルなんだろう と思った。
小屋まで歩く距離は最奥のブンブンで12km、コースタイムは5時間程度とのこと。(この最奥の小屋まで12km歩いている人は軽く調べた限り「ガイド付 きの水曜どうでしょう取材班」以外居なかった。船での訪問者は1人だけ居たので状況がよくわからなかった。)


宿近くのセブン-イレブンで2日分の水と食料を調達。朝食はカップラーメンで済ませた。


少し古い情報だとジェラントゥートから数時間かけて船で行くことになっていたが、今は立派な道路が整備されていて、車やバスで直接行ける。


1時間ほど空いている山道を快走してタマンネガラ国立公園入り口の村に到着した。


村には宿やレストラン、雑貨屋やお土産物屋、各種アクティビティ募集のエージェント会社がたくさんあって、よくある海外の観光地っぽい雰囲気になってい た。


公営の有料駐車場に車を停め、スタッフに前払いの駐車代を2日分払ってチケットをもらい、ダッシュボードに置いておいた。


国立公園なので治安はそこまで悪く無いだろうと思いつつも物を盗まれるのは嫌なので、ノートパソコンから超望遠レンズから何からすべてザックに詰め込み、 熱帯のジャングルだからと4リットルの水を入れると体感20kgぐらいになってしまったが、まぁ、登山みたいに坂を登るわけじゃないし、これなら歩けるか なと判断してそのまま背負って出発した。



現在地を確認するためにすまホでGoogleMapを見ると「オフラインモード」の文字が目に入ったので、役に立つかもと思って念のため歩く予定のエリア の地図をダウンロードしておいた。


海外の観光地はどこでもそうだが、観光客がネットを使いまくるので回線状況が非常に悪く、もしかしたらダウンロードが完了しないかなぁと思うぐらいの進捗 具合だったが、後で気がついた時にはスマホは圏外に入っていたものの、ダウンロードは終了していて助かった。





この時点ではまさか水が4リットルでは足らず、加えてザックの重量オーバーが命取りになり、Googlemapが生還のための最大の武器になるとは予想す らしていなかった。





渡し船で村から国立公園側に渡してもらった。(100円ぐらい)


船着場で今回の旅では初めて日本人観光客の団体(しかも若者グループ)とすれ違ったのだが、彼らは場違いなぐらいファッショナブルな軽装だった。


まぁ、そのぐらい格好でも大丈夫なぐらい整備が十分に行き届いているのであろうと思った。








事前情報では奥地に行くとヒルが多いということで、ズボンを靴下の中に入れておいた。

なんせ日本人観光客が巡ったであろう場所よりも、全然奥地へ行くつもりなのだから。



まずは公園事務所に立ち寄り、数あるブンブンの中でも最奥にあって最も動物に会える可能性が高いという「ブンブンクンバン」の宿泊を申し込んだ。(約 500円なり) 


他の宿泊客の状況を聞くと、ここ最近予約は無く、今日もクンバンは私一人だけとのこと。


多少寂しくはあるけど、動物観察目的だし、むしろ一人きりのほうが好都合だと内心喜んだ。









国立公園の地図をもらい、スタッフのおじさんにブンブンクンバンまでのルートを確認すると、行きは川沿いのコース、帰りはジャングルの中を行く山コースを 行くのがアップダウンの関係でおすすめとの事だった。(行きと帰り、どちらがアップダウンが多いのかをちゃんと聞き取れていなかったのだが、あえて確認は しなかったが、なんとなく山よりも川沿いのほうがアップダウンは少ないんだろうと思っていた)



「地球の歩き方」によるとブンブンクンバン近くのクアラトレンガヌまで船で運んでもらうという移動手段もあったのだが、「水曜どうでしょう」では歩いてい たみたいだったので、移動途中での動物との出会いも期待できることから船は使わないことに予め決めていた。


事務所裏の看板表示に従って歩き始めた。





トレッキングコースは木道で整備されており、アップダウンもきつくはなく、これなら12kmは余裕だなと思った。


出発したのはまだ朝早い時間だったので気温もそれほど高くなく快適に歩くことができた。


しかし、川沿いコースには1つ難があった。


それは川を船が頻繁に行き交うこと。


というのも、鳥や虫の鳴き声を聞いてジャングル探検気分に浸りたいのに、常に川から船のエンジン音が鳴り響き、雰囲気が台無しなのである。


さらに今回はバ イノーラル録音でジャングルの音を生々しく録音したかったのだが、エンジン音はかなり遠くまで届くので完全に遠くに去るまで音が鳴り 止まないのだ。

たくさん鳥が鳴いてるエリアで録音しようとしばらく粘って待って、ようやく船のエンジン音が一切聞こえなくなったと思って録音を開始しても、すぐに別の船 が来るので、何分も粘った挙句に結局録音を諦めざるを得なかった。



しかも、中には高速で川を走るサービスをしている船もあるらしく、乗ってる観光客の叫び声が聞こえてくるのもかなり興ざめだった。






他の観光客が多いのも録音には不利な状況だったが、これも観光地ゆえ仕方のない事だと諦めた。










それでも珍しい鳥やサルたち、特にアリが目を楽しませてくれたので、なんだかんだとけっこう楽しく歩いていた。


では、写真を何枚か。








蝶。











鳥。











アリの群れ。


葉や木を囓る音がカチカチと周囲に鳴り響いてすごかった。


ここでも音を録音したかったのだが、なんせ船が頻繁に行き交うので、なかなかチャンスが巡って来なくて困った。





せっかくなので、キャノピーウォーク(別料金)にもチャレンジすることにした。







キャノピーウォークの入り口にたどり着くまでにかなり急な階段を登らなければならなかったのが想定外で、重いザックを背負ってることもあって少し体力を削 られてしまった。











そして、この頃からだんだん日差しがきつくなってきて蒸し暑くなってきた。











これまで世界各国のジャングルには何回か行ってるが、なんだかんだでこれが人生初のキャノピーウォーク。
(観光地化されたジャングルにはだいたいキャノピーウォークがアトラクションとしてつきもの)


本来は研究者がキャノピー(樹冠)に生息する動物を観察するためのものだったもののはずで、途中に居た監視員いわく「こんな時間に来ても、他の人が散らし ちゃうから動物や鳥達は何も見られないよ~」とのことで、まさにそのとおりであったのが残念だった。








高さゆえの爽快感はあって楽しめたけど。




途中で前を歩いていた家族連れに追いついてしまい、高所恐怖症の子が居てあまりに進みが遅いので抜かさせてもらったら、、、








今度は人生最大級密度のアリの群れが居たので観察しようと思ったところで家族連れに追いつかれてしまい、抜かさせてもらったのに前を塞ぐのも迷惑だろうと ゆっくり観察できなかったのが心残りだった。




さて、寄り道しまくったし、そろそろブンブンクンバンを目指してガンガン進むか。








キャノピーウォークを超えたところに船着き場があって、そこで木道は終了し、普通のトレッキングロードに切り替わった。

いわゆる観光客が気軽に来られるエリアが終了したわけである。
とは言え、道の状況は歩きにくいというほどでもなく、快調に歩みを進めた。










格好からしていかにも日本人だろうという若い女性2人組が頭上を一生懸命見上げていたので、同じ方向を見てみるとサルか何かの動物が居たので、メモ写真を 撮っておいた。











キツネザルだろうか?











その後も蟻の群れはあちらこちらに居て、目を楽しませてくれた。













ようやく出会えたジャングルならではの美しい鳥。



写真を撮っていたら先ほどの女の子二人組が追いついてきたので、最初から日本語で挨拶して情報交換をしてみると、彼女たちは2泊4日ぐらいの弾丸ツアーで 今日中にクアラルンプールに戻るということで、この後10分ぐらい後ろをついて歩いてきていたが、そこでタイムアップだと引き返していった。



再び一人で川(本流)に添って歩き始めたのだが、この頃から支流として流れこむ川を通過するたびに地面が大きくえぐれているのを通過せねばならず、次第に アップダウンがきつくなってきた。


また、太陽はさらに高く登り、木陰を歩いていると言ってもそこはジャングル。
汗が噴き出すような状況になってきた。


木道を歩いているときは他の観光客にもそれなりに出会ったが、木道が終わってから出会ったのは先程の日本人女性2人組が最初で最後である。


なんとも寂しいトレッキングロードだが、鳥の鳴き声や船の音は相変わらず騒々しかった。







そろそろ疲れてきたので軽く小休止を取ることにした。


100円ショップで買った折りたたみ式うちわが大活躍。


セブンイレブンで買った菓子パンを頬張り(日本のものとそれほど変わらない)、汗をかいたので水をがぶ飲みして一息ついた。





さて、行くか。








ダッシュで逃げていった1mはありそうなオオトカゲ。




その後、しばらく進むと後方から足音が聞こえてきたので、他にも歩いている人が居るんだと思いながら先に行ってもらおうと道を譲った。


すると、追いついてきたのは軽装の若い白人女性3人組だった。







抜かされた後、そこまでペースが違わなかったこともあってしばらく彼女たちの後方を歩いていたのだが、どうも最後尾を歩いている女の子は相当バテてるよう に見えた。
(写真は支流を越えてから登っている所)

あの調子だと、そのうちひっくり返るだろうと思っていたら、案の定、視界から消えて30分ほど進んだところで休憩している3人組を抜き返した。



そこから、しばらく行ったところで再び追いつかれたが、その時は3人目の姿は見当たらなかった。


たぶん、体力の限界を感じて引き返したのだろう。


逆に残りの2人はまだまだ元気そうで、先程よりも力強い足取りで追い抜かしていった。



なんか、既にちょっとバテ気味の自分が情けなくなってきた。







2人に追い抜かされた直後、公園事務所から案内看板が登場したので見てみると、ブンブンクンバンまでの距離が7kmと出ていて我が目を疑った。


え? もう4時間歩いたのにまだ半分も進んでないの!?


録音するのに何分も粘ったり、キャノピーウォークに立ち寄りしたり遅れる理由はあったにせよ、これはかなり想定と違う。


コースタイムの5時間ぐらい歩ければブンブンに着くとと思っていたのだが、今のペースだと5時間どころか10時間近くかかってしまう。


さらにちょっとヤバイのは自分の疲労度がすでに80%ぐらいに達していて、残り7km歩くのがけっこうキツイじゃないかということである。




そう思うと、急に気分が焦り始めた。




ついさっきまでのジャングル堪能気分は完全に吹き飛び、この事態をどう乗り切るかで頭が一杯になってしまった。


スマホを取り出し、あらかじめダウンロードしておいたGoogleMapと公園事務所でもらった地図と照らしあわせてみると、ジャングル地帯なのでほとん ど緑一色で本流の川と大きな支流ぐらいが表示されているような状況だったが、大きな支流が本流と交わる辺りが地図でいうところの船着場のあるアラトレンガ ヌのあたりだとわかった。


GPS信号の受信が始まり現在地が表示されると、確かに自分は半分も歩いてないことが改めて判明した。



これはかなりまずい!



しかも、最初はほぼ平らだと思っていた川沿いの道は支流を通過する度に大きくアップダウンを繰り返し、超えるための斜度はかなり急となって、しまいには ロープを掴まなければ進めない場所まで登場し始めた。



そっかぁ、事務所のおじさんが行ってたアップダウンってこの事だったのか。


行きに辛い道を進んでおいて、帰りに楽な道で帰る・・・


正しい勧め方だね! 


だけど、自分にとってはこのキツさは想定外だったよ・・・


こんなことなら、かっこつけずに船に乗ればよかったなぁ。




などと今更後悔しても、こんなところまで歩いて来てしまっては後の祭りである。


一瞬だけ「引き返そうか」という考えも頭に浮かんだが、それはさすがにかっこわるすぎるので、とにかく歩き続けた。






アップダウンもそうだが、だんだん整備が行き届かないエリアに入ったのか、ルート上に倒木が放置されていて、無理やり越えなければならないシーンも増えて きた。


重いザックを背負っているので、四つん這いになったりスクワットしたりジャンプしたり、ここでもかなり体力を削られることになった。



しばらく歩くと、先ほどの白人女性2人が道端で休んでいるのを再び追い抜かした。


そろそろ彼女たちも疲れたのだろう。


しかし、バテてる具合ではこちらの方が上である。




彼女たちを追い抜かしてから30分ほど進んだところで、ついに歩くどころか休んで座っているのすら辛い状況になってしまい、道端にレジャーシートを敷く と、大の字になって倒れこんでしまった。



100円ショップでレジャーシートと折りたたみ式うちわを買ってきておいて良かったと思いつつ、大いなる不安が頭に広がってきた。



あぁ、これは南アルプス全山縦走の初日とまったく同じ状況だ。



あの時も荷物の重量オーバーで、思った以上に登れずにひっくり返ったんだよなぁ。



そして、一度倒れて30分ほど休んでから再び登り始め、1時間か2時間後にはまったく登れなくなって、結局登山道脇でビバークを余儀なくされたんだっ た。。。


つまり、ぶっ倒れるまで体力が削られてしまったら、いくら休んでも無駄ということか。


さて、どうしたもんか・・・・



あの時と少し違うのは、山を登っているわけではないということ。



あと、3時間ぐらい、なんとか歩けるかな、、、



それとも、もう、ここで諦めて戻ったほうがいいかな、、、



いや、それは、いくらなんでも情けなさすぎるな。



そんなことを考えながら30分ぐらい空を見上げて過ごし、体を起こして予備の食パンを水で無理やり飲みこんだ。


すると、少しだけ体が楽になったような気がしたので、シャリバテか脱水症状のどちらかだったのだということにして、「もう大丈夫だ」と自分に言い聞かせ た。



ちょうどそこへ白人女性グループが追いついてきたので、大の字で倒れている時じゃなくて良かったと思いつつ、座ったまま余裕がある風の笑顔で挨拶をした。



それでも疲れを見透かされたのか、追い抜きざまに彼女たちは足を止めて


「今晩、どこに泊まるの?」


と、質問してきたので、


「ブンブンクンバンですよ」


と、答えると


「私達も。あと、ここからどのぐらいかかると思う?」


と、さらに尋ねられたので、スマホでGoogleMapを見せてあげて、


「今ここで、ここがクアラトレンガヌ。あと、2kmぐらいでクアラトレンガヌに到着するんじゃないかな?」


と、教えてあげた。


すると、休憩ばかりしていて進むペースが遅いのを心配されたのか、


「あなたは何時にブンブンに到着する予定?」


と、聞かれたので、


「7時か8時ぐらい」(日没は7時15分)


と、順調に歩けた場合の予定時刻を伝えると、


「日没後なのに大丈夫!?」


と、驚きながら尋ねられたので


「トーチがあるから大丈夫」


と、かっこつけて、常識ではあり得ない答えしたところ、


「あぁ確かに、そのほうが動物に会えて楽しいかもね。じゃぁ、また後で会いましょう」


と、言い残して歩き去ってしまった。


見送ってしばらくした後、自分も立ち上がりぼちぼち歩き始めた。

そして、少し歩いたところでさっぱり体力が回復してないことを実感して後悔し始めた。


しまった、彼女たちに今晩小屋に泊まるつもりだなんて言わなきゃ良かった、と。



この調子だと小屋に辿り着く前にバテて歩けなくなる可能性が高そうだ。



だったら、無理に小屋を目指さずんのを目標にせずに、その2kmほど手前にあるクアラトレンガヌ村に立ち寄って、水やコーラでも飲みながら野宿をさせても らったほうが安全で快適だし、何より歩く距離が少なくて済んだのに。


でも、今晩中に小屋に行かずに、明日も二人に会わなかったとしたら、もしかしたら捜索願を出されるかもしれないし、そうなるとやっかいだなぁ。


しかたない、村で少しだけ休んでからブンブンクンバンに行くかな。


いや、やっぱり無理せずに村で野宿かな・・・・


まぁ、いいや、、、


とりあえず村まで歩いて、コーラでも買って飲んで夕飯食べてから、今晩どうするか決めることにしよう。


まずは村に着いてからだ。



そんな事を内心で思いながら黙々と歩いた。







その後、道中みかけたアゲハの仲間。




何度も繰り返す支流超えアップダウンに呪いの言葉を浴びせつつ、その都度スマホで現在値を確認し、さっぱり前に進んでいないことにがっかりしながら、必死 に歩いた。



この頃になると、支流超えですぐに息が上がるので、早く村にたどり着きたいのに度々立ったまま小休止をしなければ歩き続けられないぐらい体力が減ってきて しまっていた。




あと、どのぐらい歩けるんだろうか・・・


そんな不安を抱えつつも歩き続け、GPSの現在地が少しずつ大きな支流に近づき、ようやくなんとか村の近くまでやってきたようだった。


あと、少しである。



しかし、大きな倒木が突然登場して道を完全に塞いでいて、そこを迂回して越えた先の踏み分け跡が四方八方に伸びていて、どれが正解かさっぱりわからなく なってしまった。


山勘で選んだ踏み分け跡は少し進むと急に怪しくなって、どこに道があるのかさっぱりわからなくなった。

登山での経験から無理をせずに倒木のところまで一度戻り、倒木の周囲を丁寧に確認するも、どの踏み分け跡も進むとすぐに消えてしまう状況だった。


結局最後は早く村にたどりつきたい一心で、一番しっかりしていた踏み分け後を適当に進んでみたら、本格的に道じゃないところを長距離歩き続けてしまった。


幸い、植物の量は多くないエリアだったので道じゃなくても進むことは出来るので、方向感覚だけを頼りに歩き続けた。


しかし、正解のトレッキングルートがどのあたりに伸びているのかさっぱりわからなくなってしまい、かと言って今更倒木まで戻ることすらできなくなってしま い、自暴自棄な判断をしたことを心底後悔しつつ、コースに戻れるよう祈りながら歩いて行くと、突然ジャングルの中にトレッキングロードが現れてホッと胸を なでおろした。


これは我ながら大いに反省しなければならない行為だった。


いくら国立公園とは言っても、ジャングルを舐めたら危険なことを再認識させられた。


そして、「先を行った白人の女の子たち、ここを無事に通過したんだろうか?」
と、どう考えても自分のほうがヤバイ状況なのに心配してしまった。








ようやく大きな支流を越えるための橋が登場した。


今にも踏み抜きそうだったので慎重に渡った


地図では川を渡ったところに村があるはずなのだが(帰国後に改めてよく確認すると支流を超えた先の三叉路を右折することになっていたが)、予期せぬ登り坂 が登場し、それがかなりの距離続くものだから、もしかしたら村を見落として行き過ぎたんじゃないかという不安にかられ、歩くモチベーションが一気にゼロに なってしまって、再び道端に大の字で倒れてしまった。



一度倒れてしまうと、少なくとも30分は動けない。



これで村に立ち寄らなかったとしても、ブンブンクンバンに日没までに到着するのはかなり厳しい状況になってしまった。



こりゃぁ、村を探してビバーク確実だなと考えながら30分ほど大の字で休んだ後、再び体に鞭打って歩き始めると、倒れた場所から50mほど進んだところに T字路の交差点が登場した。







なんだよ、もうちょっとで村に着いたんじゃん!

倒れるにしても、あと50m歩いておけばよかったと後悔した。


と、同時にブンブンクンバンにあと少し歩けば到着できるということが嬉しかった。


先ほど倒れている時に村は通りすぎたからブンブンクンバンに行こうと決めていたのもあるが、倒れて休んで体力が多少回復したのと、看板を見たことで俄然元 気が出てきたこともあって、クアラトレンガヌ村の方には行かずにブンブンクンバンに向かうことに決めた。

日没にはギリギリ間に合わ無さそうだけど真っ暗になる前には到着できそうだと踏んだ。

若い白人女性に心配されて通報されるのも嫌だし。



さーて、最後のひと踏ん張りだ!




幸いT字路を越えてからの道はアップダウンも少なく歩きやすく、モチベーションだけは満点なこともあって快調に足を進められた。




地球の歩き方によると、船着場からブンブンクンバンまで45分との事だったので、T字路からなら40分ぐらいで着くだろうと予想した。







地図通りに二股の分岐が登場し、案内に従って右の道に進んだ。
左の道はクアラタハンに戻る「山コース」だろう。


二股を超えた先の道は少し荒れ気味になってきた。日没時間はすでに過ぎ、だんだん暗くなってきたので、ここが道だと示すオレンジの◆マークや○マークを確 認しながら進んだ。(上の写真でも看板右の木に菱型のマークが付いている)







その後、さらに二股の分岐が登場し、地面に倒れたままの案内看板には登山道もブンブンクンバンも揃って同じ方向だと表示されていて、「じゃぁ、違う方向に 進む道はどこに向かうんだ?」と思ったが、地図によるともう一度二股を右に進むことになっていたので、右側に進んだ。


そこから少し進んだところでブンブンクンバンまで200mという看板が道端に出ていて、自分の決断が正しかったことを確信して喜んだ。


体力はかなり限界に近いが、さすがにあと200mぐらいなら歩ける。


その後、細い道幅の急坂を下ると、枯れ川の底に降り立った。

そこは四方10mぐらいのちょっとした広場になっており、枯れ川を渡った反対側には道が無かった。


広場の中心に生えている木にはここがトレッキングロードだと示すオレンジのサイン板が幹に打ち付けられており、ここまでは間違いなく正しい道だったよう だ。


周囲を見渡すと左方向の斜面にも同じサイン看板が木につけられていて、その脇に踏み分け跡に毛が生えたレベルのトレッキングロードがつづら折れに斜面を登 りながら伸びているのが目に入った。


地図では二股は右へ右へという指示だったので左に行くのは引っかかるものがあったが、サイン看板があるし、やはりそこが正解なんだろうと思って登って行く と、道はやがて藪の中に消えており、歩いてきた道が踏み分け跡レベルだったこともあって、やっぱり選択を間違えたかと思って川底の広場に戻った。


元々進んできた急な下り坂を背にして立つと右方向へ5人ぐらい並んで歩けそうな枯れた川床が続いており、まるで整備されたトレッキングロードのように見え た。


地図では2回右に分岐することになっていたが、先程すでに2回めの分岐は過ぎた気はする。


いや、さきほどの分岐の看板は両方右(正確には同じ方向)に行けってなってたから、まだ分岐は過ぎてないのか?


じゃぁ、ここを右に行くのが正解になりそうだな。


改めて広場の中心の木に打ち付けられたサイン板をよく見てみると正方形の板を斜めにして釘で打ち付けられているのだが、それが半分に割れており、(こんな 感じ ◇ →?)、あぁ、やっぱり右方向に進めと言ってるんだなと判断して、川底を進むことにした。


先ほど見たブンブンクンバンまで200mのサイン看板から歩いた距離を考えると、そろそろ小屋が目に入ってもおかしくはないところではある。


川床の道は最初は歩きやすかった。


しかし、進むに連れ次第に足元がぬかるむようになり、終いには川の流れも登場した。


加えてやっかいな倒木まで登場し、それを無理やり越えようとしたら棘で腕をひっかかれるわ、ザックが棘に捉えられてしまって四苦八苦するわ、泥まみれにな らないよう注意しながら重いザックを抱えたまま四つん這いにさせられるわで、倒木地帯を抜けるのにえらい体力を消耗してしまった。


なんとなく先ほどのジャンクションっぽい場所に引き返したほうが良い気がしたのだが、先ほどの倒木を再び越えるのも億劫だし、あと、50mも進めば小屋に たどり着ける可能性もあるので、今更引き返す気にはならなかった。


そうこうしているうちに周囲はすっかり暗くなってしまい、川床の道がどこにあるのか判別するのも怪しくなってきてしまった。



そんな中登場した大きな倒木を迂回しようとヤブに突っ込んで悪戦苦闘している最中に、暗さからくる小屋を探すことに対する諦めの気分と、もう体力の限界だ という気持ちが同時に心のなかに沸き起こってしまい、倒木脇に少しだけ平らな場所を見つけるとレジャーシートを敷いて、大の字で倒れてしまった。




あぁ、もうダメだ。



これ以上一歩も歩けない。



もう、ここで野宿にしよう。。。



倒れる寸前に寝るのに良い場所を探す余裕が無かったため、今日倒れた場所の中でここが一番寝心地の悪い場所だったが、もう体が動かなかった。



地面に段差があって体は水平にならないし、後頭部や背中のあたりには太い木の根かツタ植物が這っていて体に当たっている。


しかし、ここは川床の道のすぐ脇なので、明日の朝に白人女性2人が通れば見つけてもらえるのは確実だろうから、ここでいいのだ。


というか、川床の道で正解だったのだろうか?


違ったらやっかいだな。



まぁ、いいや。



寝よう。



暗くなってから少し気温が下がってきた気がしたので、もう1枚のレジャーシートを布団代わりに羽織ると、そのまま眠りに落ちてしまった。



ちなみに、すぐ近くにあるはずのブンブンクンバンでは鹿や猪のほか、虎や象も観察できるとの事だったが、そのことはまったく気にならなかった。


そんなに虎や象に頻繁に会えるのなら、もっと観光客が押し寄せているのだろうから。









どのぐらい寝ていたのかはわからないが、目が覚めると辺りは真っ暗になっていて、木々の葉っぱの合間から星がいくつか見えていた。


そっか、雨は降らなかったのか。


というか、もし降ったら雨を避ける手段が傘とカッパぐらいしか無くてやっかいだったので、これはラッキーだったな。



腕時計を見ると23時ぐらいだった。



水はすでに半分以上飲んでしまっていたが、明日は小屋に顔を出して白人女性に無事を伝えてからクアラトレンガヌに移動して船を使ってクアラタハンに帰るつ もりだったので、喉の渇きに任せて、体が求めるままにガブガブ飲んだ。




夜になってもジャングルからいろいろな音が聞こえてくる。



周囲からは雨音みたいにポツポツと音がなっている。


最初は雨かと思ったが、空には星が出ているのでそれとは違うらしい。


たぶんリスなんかが活動していて、周囲の木から葉っぱや木の実なんかが落ちてきているのだろう。


それとも、植物自身が常に葉っぱや実を落としているのだろうか?





虫もいろいろな種類が方々で鳴いてる。


枕元にはネズミか何かが居るらしく、枯れ葉の上をカサカサと動いている音が聞こえてくる。



一応食料はビニール袋をツタ植物にひっかけて、ネズミが辿りつけないようにしておいたので大丈夫なはずである。



なんだかんだと夜のジャングルはかなり騒々しいのだが、疲れているので寝るのに邪魔な程でもなかった。



せっかくの貴重な機会なので、夜中のジャングルの音をバイノーラルで録音しておいた。



録音を終えると、ジャングル野宿も良い経験だと思いつつ眠りについた。





次に目が覚めた時は、少しだけ空が明るくなってきていて、遠くからフクロウの鳴き声が聞こえていたのだが、そのうち他の鳥が鳴き始め、次第に大合唱になっ ていった。


キツツキの仲間のドラミングの音も聞こえてくる。


鳥の鳴き声を録音をすると、行動開始するにはまだ早いので、さらにもう一眠りした。









次に目が覚めた時にはすっかり周囲が明るくなっていたので、朝食用の菓子パンとカレーの缶詰を食べ水を飲んだ。カレーの缶詰、まったく期待していなかった のだが、けっこう美味しかった。



ひとまず体力は回復したように感じたので、荷物はここに残して空身で小屋に顔を出すことにした。





しかし、である。


昨晩寝るときに眼鏡を枕元の細い樹の枝に引っ掛けておいたのだが、どうやらそれは樹の枝ではなく弓なりにしなった蔦植物だったらしく、寝ている間に私が手 で払いのけるか何かをして大きく蔦ごと位置が動いており、眼鏡は既にそこには無かった。


これ、全然違う場所に動いちゃってるけど、どのぐらい吹き飛ばされちゃったんだろう・・・


幸い、ほとんどの荷物をほとんど持ってきただけあって予備のメガネがザックの中にあったので、それをかけて眼鏡を探しはじめた。



探している最中に間違えて眼鏡を踏んだらアウトなので、慎重に足を動かしながら懸命に探すこと5分、別の雑木の葉っぱに引っかかっている眼鏡をようやく見 つけた。


やれやれである。



さて、小屋を探しに行くか。



見つけた眼鏡はそのままザックに仕舞い、予備のメガネのほうを掛けたまま空身で川床の道を先に進んで小屋探しに出かけた。








川床の道は最終的に「ただの川」に切り替わり、ぬかるみに他の人の足跡が一切無いことから間違いであることは明らかなのだが、もし、あと10m進んだとこ ろに小屋があったとしたら悔しいので、あともう少しだけ先に行ってみようと思いながら、どんどん進んで行った。


ふと足元を見ると、蔦かと思っていた黒く長い物体はジョイントが付いていることから明らかに人工物で、どうやら水を送るホースのようだった。



こういうものを見てしまうと、下水か上水かわからないけど、やはりこの先に小屋がありそうな確信を持ってしまうのである。



川床はとても歩けない区間のほうが多くなってきたのと、幸いホースもそういう場所では蛇行する川をショートカットするように伸びていたので、それをガイド 代わりにして、川から離れたり戻ったりしながらどんどん先に進んだ。







しかし、ビバーク地点から数百メートルほど進んだところで川自体がブッシュの中に消えてしまい、いよいよ先に進めなくなった。



ここで、よくよく冷静に考えてみたら、昨晩見た200m先の看板から既に随分歩いたことに気が付き、ようやくここで引き返す決断をした。









ビバーク地点まで戻るのは川に沿って戻るだけだから簡単そうなものなのだが、ホースをツタ植物と間違えて見失ったり(写真がまさにそうで、これは蔦植 物)、ショートカットの最中に再登場した川が元々歩いていた川だったのかどうかわからなくなって不安になったりと、空身で楽勝ウォークのつもりが、小屋探 しなんかしなきゃよかったと後悔するぐらい戻るのが大変だった。




そして、ようやくビバーク地点に戻って来て、ほっと胸をなでおろした。





しっかし、いったい小屋はどこにあるんだろう?










にしても、両腕がヒリヒリする。











昨晩までは疲れていて気にもならなかったが、半袖の服でトゲだらけの藪越えをしたので、傷だらけになっていた。


そう言えばヒルが多いって聞いてたけど、今のところ全然被害にあってないな。


雨が降ってないからかな。

とりあえず、これはラッキーだった。



小屋探しだけでもけっこう体力を使ってしまったので、30分ほどゆっくり休んでからパッキングをし、船着場のあるクアラトレンガヌ村に向けて出発した。


昨日歩いた道を45分も歩けばコーラにありつけるはずである。



コーラ! コーラ!



と、内心で言いながら黙々と進んだ。








先ほどの小屋探しで川沿い歩きにちょっと慣れたこともあり、昨日苦労させられたぬかるみや倒木を避けてショートカットしながら進んで行った。




すると、ジャングルの木々の先にちょっとした広場が見えてきた。





吸い寄せられるように歩いて行くと、四方30mぐらいの視界の開けた場所に出た。





そして、向かって左側の少し高いところに何かがあるのが目に入った。








あ!!ブンブンクンバン、こんなところにあったんじゃん!




昨日の夜は結局のところ、ブンブンクンバンから100mも離れていない場所で倒れて野宿して寝ていたらしかった。



これ、川床からだと見えない場所にあるんだけど、みんな見つけられるんだろうか?



ひとまず、白人の女の子に挨拶しておくかと小屋に向かい、高床式の階段を登って中に入ってみた。










しかし、そこに白人女性は既におらず、ゴミ袋が2つだけ残されている状態だった。
(もちろん、ゴミは持ち帰るルール。彼女たちが残したのかどうかはわからないし、誰が残したのか知らないが、マナー違反である)




それはともかく、なんかベッドが気持ちよさそう!




荷物を放り投げてベットで大の字になって横になってみた。



ただの木のベッドだが、石や小枝とかが無い分、やはり寝心地が随分良い。



昨日の夜、ここに辿りつけていれば、どんなに心地よく寝られたか・・・

(ブンブンで二度と夜を過ごしたくないという旅ブログも見かけたが、今の私にとっては天国みたいなところである)




30分ほど意味もなくベッド休憩を堪能した後、動物観察用の覗き窓から外を見てみると、窓から先ほど自分が歩いていた広場を見下ろせるようになっていた。



なるほど、あそこに岩塩とかがあって、夜に動物が集まってくるのか。



そして集まってくる動物よろしく、ふらふらと吸い寄せられて来た、と。



見事な配置。



見事な吸い寄せ効果。



・・・・・



さて、そろそろクアラトレンガヌの村に向かうか。



ザックを背負うと自分が歩いてきた方角をキープするように広場から踏み分け跡を探して先に進んだ。



しかし、その踏み分け跡はすぐに消えてしまい、しばらくすると川が見えてきた。



元々は川床を歩いていたはずなので、川に出ることは想定通りなのだが、なんか川の様子が昨日歩いた川床と違う気がした。



昨日は意識朦朧状態で暗い中を歩いていたので記憶に自信がないこともあったので、しばらくは川に沿って歩いてみたが、やはりまったく見覚えがない景色なの で、これは違う気がする。


こういう時はまずは小屋に戻らなければならない。


幸い、小屋の前に広い広場があるので、方向感覚だけで歩いてもなんとかなるだろうと、少しドキドキしながらも、踏み分け跡っぽい場所をトレースして元来た 方向へ戻った。


しばらく進むと広場らしい明るい場所が前方に見えてきて一安心である。


この往復だけでも少し疲れてしまったので、もう一度小屋のベッドで軽く一休みしてから高台にある小屋の出入り口ドアから下を見下ろして注意深く確認する と、自分が思ってもみなかった方向にトレッキングルートが2本伸びていることがわかった。





公園事務所でもらった地図では小屋に到達する道は1本しかないはずなのに、である。


さらに、その2本の道に対してどちらに進むとどこへ出るかの案内看板は一切見当たらない。


昨晩、正しい道でここにたどり着いていればこんなことで迷わないはずなのだが、なんせ適当に広場に出て小屋に着いちゃったので、ここから村への行き方が さっぱりわからないのである。


一度ここから昨日の野宿ポイントまで戻って川床を歩き直すという手もあるのだが、適当にショートカットしながら広場に来てしまったので、川床に戻る自信す らなくなってしまっていた。


しかたがないので、2本のうち、より自分の方向感覚にあってる方向に進んでみることにした。



さて、行くか。


ザックを背負うと右方向へと進んでいく道を進んだ。



選んだ道はけっこうしっかりしていて、歩きやすかった。



しばらく進んだが、昨日見た「小屋まで200m」という案内看板は一向に出てこなかった。



そして、この道も歩く人が少ないのか倒木が時たま登場し、それを超えるのにえらい苦労させられた。



一晩ゆっくり寝て食べて飲んだ割には体力が回復したという実感が無かった。



しばらく歩いても何の案内看板が出ないので、だんだん不安になってきた。



これ、まさか村への帰り方がわかりにくいってことはないよな?


いや、昨日は簡単にたどり着けなかったわけだから、それはあり得る。



だとしたら、ちょっとマズイ。


今日は1時間ほど歩いて村に戻ってコーラ飲んで船で帰るだけと思っていたので、食料も気前よく食べたし、水もたっぷり飲んでしまった。


食料は今日の昼の分まではあるからまだ少し余裕があるけど、帰り道がちゃんとわからない状況で水が残り少なくなってきたのが、かなり痛かった。


体が水を欲しているのは間違いないのだが、欲求に任せて好きなだけ飲んだら、あっという間に底をついてしまいそうで、飲むに飲めないのである。


昨日に引き続き、少しずつ焦り始める気持ちを感じたが、焦ると判断を誤るので、「大丈夫、この道を進めば必ず村にたどり着ける」と自分に言い聞かせて歩い た。



いや、言い聞かせるのはいいんだけど、ところでこの道、なんか登ってる気がするし、もしかして地図で言うところの登山道を歩いてるんじゃないだろうか?


スマホを取り出して電源を入れGoogleMapで現在値を確認するも、ジャングルは緑一色で表示されるだけで、方位磁石も合ってるのか合ってないのかわ からないので、どちらに進んでるのかもさっぱりわからない。

川か大きな支流でも近くにあれば、もう少し自信を持って歩けるのだが、離れた場所なので緑一面の中に青い点が表示されるだけなのである。

方位磁石をキャリブレーションしたいのだが、それをできるアプリを入れていなかった。

持ってきたのは最近購入したスマホで電池を浪費させないよう極力アプリを入れないようにしていたのがアダになってしまった。

山旅ロガー&地図ロイドぐらい入れておけばよかったなんて、こんなところで後悔しても後の祭りである。


それでもなんとかならないかと考えて、ふと思い出してで現在値を長押ししてしてみると「ピン」を立てられたので、その状態のまま歩いてみたところ、「ピ ン」がどちらに離れていくかで自分が歩いている方向がわかることに気がついた。


ひとまず、これで自分がどちらに向かって進んでいるかだけは把握できるようになった。


迷子になってる状況でこれは大きかったし、心強かった。



というわけで、その状態のまま歩き続けていたのだが、水を飲むのを我慢していたからか、ついに大の字になってひっくり返ってしまった。



早速本日1回目である。


あまりに早いノックアウトだが、これは水が足らないからだと思った。


まずは水を飲まなければどうにもならない。


帰り道がわからなかったら、この後足らなくなるのは必至だったが、我慢しきれずにかなり飲んでしまった。


そのまま30分ほど休んだ後、もう少しだけ先に進んでからピンが離れていく方向を確認すると、明らかに間違った方向に自分が進んでいることが判明したの で、一度小屋に戻ることに決めた。


あまりの徒労感と、けっこう遠くまで歩いたこともあって、帰る途中にも体力が尽きて、もう一度大の字になって倒れてしまった。


ここで残りのすべての水を飲んでしまい、いよいよ飲水が無くなってしまった。


たぶん、小屋から2本伸びていたもう一本の道が方角的にも正解だから、あの道を45分、遅くとも1時間も歩けば村にたどり着くだろうと期待するしか無かっ た。



大の字になって倒れた場所のすぐ側に小さな川が流れていたので、そこで泥水(そこまで汚くはないが、無色透明ではない)をペットボトルに汲んで頭からか け、タオルを濡らして首に巻き、100円ショップで買ったうちわで常に扇ぎながら、できるだけ汗をかかないように努めた。



以下、記憶があまり無いのだが、この時に首からぶら下げていたカメラが(勝手に)撮っていた写真を9枚ほど掲載。






その1











その2











その3











その4











その5、コースを示すオレンジのマーク。(丸バージョン)











その6  大きな岩があったのでメモ撮影した











その7











その8











その9


写っているレジャーシートは倒れた時に敷いていたもの。












小屋まであと少しというところで木に黄色い看板が打ち付けられていることに気が付き、見てみると今自分が進んでる方向(小屋の先)に船着場のあるクアラト レンガヌ村があると表示されていた。


つまり、Googleマップで方向を確認するまでもなく、最初っから逆に向かって歩いていたわけである。


小屋を出てすぐにこの看板に気がついていれば、こんなに無駄に歩かなくて済んだのに。。。



まぁ、もう一本の道が正解だとわかっただけでも良いか。



フラフラになりながら小屋に戻ると、再びベッドで大の字になって倒れてしまった。



しばらく寝て過ごしたら、なんだかんだですでに昼を過ぎていたので昼飯を食べることにした。



万が一村に帰れないことも想定して夜の分(ツナの缶詰1つ、食パン1切れ)を残しておいた。


いや、さすがに村に帰れないなんてことは無いとは思うのだが・・・



食パンは水が無いと口の中の唾液をすべて吸い取られて飲み込むのが辛く、何分も口の中で咀嚼をし続けなければならなかった。


もしかしたら、水洗トイレ用の水溜め(小屋の天井に大きな桶が配置されていて、そこからホースがトイレに伸びている)に、雨水が溜めてあるんじゃないかと 期待したが、トイレでレバーを引いても何も出てこなかった。


むしろ、ボットントイレはしばらく汲み取られてなかったようで、そっちの見た目と臭いが食欲に悪影響だったのだが、そんな状況の中でも、ひたすら口の中で パンを飲み込めるまで根性で咀嚼し続けた。




さて、そろそろ行くか。



次の道こそは正解のはず。


水無しだけど、あと1時間頑張って歩けばコーラが飲める!



ザックを背負うと、左方向へと続くもう一本の道を歩き始めた。




こちらの道もきちんと整備されて歩きやすかったが、倒木が多いのは先ほどの登山道と同じだった。


倒木のいなし方もだんだんいい加減になってきて、顔に引っかかった蔓植物をとくに振り払うこと無く強引に前に進んだら、眼鏡を吹き飛ばされてしまった。


たぶん足元に落ちたのだろうと、もうひとつの眼鏡をかけ直して探してみたが、これがなんとさっぱり見つからないのである。


枯れ葉の中に落ちた茶色の眼鏡、たしかに見つけにくいのは確かだけれど、この世から消えてなくなったわけではない。


そう思って探すのだが、範囲を半径1m、3m、5mと広げてもさっぱり見つからない。


ジャングルで眼鏡探し、今日は朝から2回目である。


いい加減嫌になってきた。


無くしたのが普段使ってない予備のメガネだということもあって、このままジャングルに置き去りにしようかとも何度も思ったのだが、そうは言っても半径 10m以内には必ずあるはずなので、できれば見つけたいという気持ちもあって諦めきれなかった。


しかし、トレッキングロード以外のところまで広範囲に探してもさっぱり見つからなかったので、いよいよダメかと諦めてザックを背負おうと思ったら、その ザックに眼鏡が引っかかっていた。



まぁ、そんなもんだよね~。



はぁ、疲れた。。。



あぁぁぁぁ、水が飲みたい!



今すぐ飲みたい!



・・・・




さて、泣いてもわめいても水は降ってこないから、行くか。



小屋のところに配置しておいたGoogleMapの「ピン」によると、最初は良い感じの方向に進んでいたのだが、途中からなんとなく違う方向へ進み始めて いるような気がした。


どのぐらいの距離を進んでるのだろうとGoogleマップをあれこれ弄って距離スケールを表示させると、500mぐらいはすでに進んでいるようだった。


もしかしたら、この道も違うのかと思うと心底ゾッとするが、分岐を見落としたわけじゃないし、そんなはずは無いので、フラフラになりながらもひたすら前に 進んだ。



しばらく進むとかなり大きく葉っぱや枝がびっしりついた大木が倒れて道を塞いでいた。


倒木はこれまで何本も越えてきたが、ちょっとこれまでとは違う規模の塞ぎ方で、かなり大きく迂回しないと先には進め無さそうである。


周囲には迂回するための踏み分け跡が見当たら無いどころか、両脇はかなり鬱蒼と植物が生えていて迂闊には突っ込めない雰囲気である。


昨日も一度倒木を迂回しようとして道に迷いかけたので、どうしようかと悩んだのが、ここで引き返しても小屋に戻ることしか出来ないので、意を決してジャン グルに突っ込んだ。



案の定、ルート脇の藪は棘の生えた植物だらけで、前に進むだけで腕や首筋がどんどん傷だらけになっていった。


昨晩もそうだったが、疲れているとトゲでひっかかれること自体はあまり気にならず、ザックや衣服に棘が引っかかって前に進めなくなった時だけ仕方なしに少 し戻るぐらいで、強引に前に進んだ。


トゲで怪我することよりも遥かに辛いのは、重いザックを背負ったまま無理な姿勢を取ったり、植物をかき分けながら一生懸命前に進まなければならないので体 力がどんどん削られていくことだった。


しかも、どこまで進んでもかなりの密度で植物が生い茂っており、なかなか迂回できそうなコース取りが出来ないまま、トレッキングルートからかなり離れてし まった。


迂回なのでUの字を意識しながら「たぶんこちらの方にトレッキングルートがあるんだろう」と想像して適当にカーブしながら進むのだが、さっぱりトレッキン グルートに戻れない。


さすがに少しずつ嫌な予感がしてきたので、一度仕切りなおそうと元来た方向に少し戻ってみたところ、自分が今どこをどう歩いてきたのか既にさっぱりわから なくなってしまっていることに気がついた。


さらに、ジャングルの景色にこれと言った特徴がなく、自分がつい先程までどちらに進みたかったのすら自信が持てなくなってしまった。



この時、はじめて「これは本気でヤバイんじゃないか?」という言葉が頭に浮かんだ。



いくら村への帰り道がわからないと言っても、小屋やトレッキングルートの上にいれば誰かに会う可能性は残されているし、最悪捜索隊が出ても容易に見つけて もらえるはず。


しかし、コースから外れて迷い始めてしまったら、その可能性は限りなくゼロになってしまう。


さらに、灼熱のジャングルで水は既に無くなっており、食料も夜の分しか残っていない。


体力も30分歩いたら30分倒れるぐらいしか残っていない。


あまりにも悪い条件が揃いすぎているのである。


国立公園だと思って、舐めすぎたか。



「あぁ、道迷いで遭難して死ぬ人って、こんな感じなんだな・・・」



と、まるで他人事のようにぼんやりと思いつつも、やはりこんなところで野垂れ死にたくはないという気持ちが心の底から湧いてくるので、棘の生えた草木をか き分けながら、信じた方向にひたすら進んだ。


やばいと感じてから10mぐらい進んだところで、トレッキングルートが視界に入った時は、文字通り死ぬほど嬉しかった。



いやぁ、本当に焦った!


やれやれ、だよ。


もう、懲り懲りだ!




しかし、である。


もしこの道がクアラトレンガヌ村に続く道じゃなかったら(Googleマップによる現在地トレース的にはなんとなく、その可能性が高くなってきているのだ が)、また、小屋に戻るときにここを通過しなければならないのかと思うと心底げんなりした。


いいや、今は村に帰れると信じて前に進もう。


この先に交差点があって、村に続く道があるかもしれないし。



気を取り直してしばらく進むとT字路が現れ、脇に細い道が伸びていた。


一応脇の細い道もトレッキングルートのようだが、看板も何も出てないし、登り坂になってるし、ここはまっすぐ進むのが正解のようだった。


T字路から少し進んだところで再び体力が尽き、大の字休憩を30分取った。


そこからしばらく進むと、道が川底へと降りて行き、川を渡った反対側にトレッキングルートらしきものが見当たらなかったので、一度引き返すと、川底に降り る寸前にオレンジのマークが出ていて間違いなくトレッキングルートは川底に降りるのであってるらしかった。

再び川底に戻って対岸をよく探すと、降りたところとは少しずれた対岸の木にオレンジのマークが付けられているのを発見し、その脇に踏み分け跡レベルのルー トが伸びているのが見えた。



なるほど、やはりこのオレンジのマークを意識して追いかけるのが重要なんだと、ここまで来てようやく再認識した。


ただ、こういうわかりにくい場所に必ずオレンジのマークが出ているわけではないところが嫌らしいところではあるのだが。



そこからしばらく進むと、休憩の出来そうな広場に出た。(広場と言っても頭上は植物の葉に覆われている)



広場の中心に生えている大木に看板が打ち付けられているのが目に入り、これでようやく道がわかるぞと張り切って見てみると、、、









看板には「クアラタハン→」と書かれていた。



Googleマップ上で進んでる方向から嫌な予感がしていたのだが、このコースは小屋から山側を通って公園入口に戻るコースだったのだ。


公園事務所のスタッフのおじさんが帰り道におすすめと言っていたコースである。

たぶん、アップダウンも川沿いに比べれば少ないのだろう。

広場の先に進んでみると地図にも載ってる支流の大きな川(川幅20mぐらい)が流れており、浅瀬に置かれた石を渡って対岸に進むことになるらしかった。

いくら、公園事務所までの帰り道がわかったと言っても、水は無いし少し歩いたらぶっ倒れる状況で、ここからさらに初見の道を10km近くも歩く気にはなら なかった。



というか、これで小屋から2本伸びている道が両方共不正解だということが判明してしまった。


朝に偶然小屋を見つけた時点で楽勝で帰れると思っていたが、状況はむしろ逆で適当に小屋にたどり着いたせいで、実は帰り道を完全にロストしているのだと今 更自覚させられた。



しかし、一体全体どうなってるんだ!



要所要所にわかりやすい看板でも出しておいてくれよ!と、国立公園を管理している団体に文句を言いたい気分だが、今はそれどころではない。



体力無し、水なし、食料残り僅かの状態で帰り道をロストしているのである。




さて、どうするか。


というか、まずは小屋に戻るしか今は手が無い。



ここまでの道のりを思い出すと、小屋まで戻るということだけでもかなりゲンナリなのだが、ここに留まっているわけにもいかない。



体に鞭を打つと、来た道を戻り始めた。



すぐに先ほど渡り方がよくわからなかった川底に降りたのだが、帰る時も対岸にあるはずの登り口がさっぱり見つけられずに困った。

川底を少し移動しなければならないのだが、この付近で川が二股に分岐したりしていて、何かと嫌らしい感じになっている。


行きは川底に降りる時も登る時もオレンジのマークが付いていたが、反対側からだとさっぱり見えないのだ。


しばらく川床を右往左往して登り口をようやく見つけ、なんとかコースに戻れて一安心である。


一度歩いたトレッキングコースですら、ちょっとわかりにくいだけで帰るときに迷いそうになるんだから、舐めてたらあっという間に迷子になりそうだった。


というか、昨日も今日も迷子になりまくりなのか。。。



だんだん「二度とクアラトレンガヌ村に戻れないんじゃないか?」というネガティブな考えが頭に浮かぶようになってきたが、「いくらなんでも、そんなはずは ない」と自分に言い聞かせて歩き続けた。



その後、細い脇道とのT字路で体力が尽き、本日何回目かもわからない大の字仰向け休憩を取った。



あぁぁぁ、水が飲みたい!




ガブガブ飲みたい!




しかし、手元のペットボトルには茶色い水が入っているが、さすがにこれを飲む気にはならない。


しばらく空(樹冠)を見上げてどうしたもんか考えていたのだが、ついに意を決して川の水を飲むことに決めた。



と言っても、この泥水ではない。


先ほど渡らなかった大きな支流の川の水である。


たしか随分水が綺麗だった気がした。


あれなら飲めるんじゃなかろうか・・・


というか、あの水でもいいから飲まないと、このままじゃ脱水で行動不能になる。



荷物をT字路交差点に置きっぱなしにし、念のためパスポートだけ小さな折りたたみ式ザックに詰め替えて背負い、再び先ほどの大きな支流の川に向かって歩き 始めた。



やはり、空身になると歩くのは楽である。


車の中に使わない荷物を置いて来れば、こんなことにはならなかったかも、と、思った。






先ほど通過の仕方で迷った川底を越えて大きな川を目指した。



T字路から大きな支流の川までそんなに遠くないと思っていたが、歩いてみると案外距離があり、疲れた体ではそう簡単には到着しなかった。


ようやく川べりにたどり着くと、ペットボトルで水を汲み、わりと無色透明なのを数秒見つめてから恐る恐る飲み始めた。


しかし、一度飲み始めるともう止まらず、2リットルぐらい一気に飲み干した。



はぁぁぁ、生き返った!





持て来たペットボトルに水を汲んで簡易ザックに放り込むと、「下痢になりませんように」と天に祈ってからT字路に戻った。



その後、ほとんど空身で水をたっぷり飲んだ割には歩くのが辛く、「まだか、まだか」と心のなかでつぶやきながら歯を食いしばって歩き続け、やっとのことで ザックを置いたT字路まで戻ってきた。



辛抱たまらずもう一度大の字で30分ぐらい体を休めると、一応念のため細い脇道を探索してみることにした。


方角的には悪く無い道なのだが、どうせ、この道は違うだろうと思っていたので、ザックは再びT字路に置きっぱなしにしておいた。



道は緩く長い登り坂から始まり(この時点で、船着場のあるクアラトレンガヌ村に戻る道とは絶対に違いそうなものなのだが)、細いながらもしっかりしたルー トになっていた。


突然「ブフォオ!」という大きな声とともに、大型の哺乳動物が数頭ジャングルの中を「ドドドドド!」と地響きを鳴らしながら駆け去っていく音が聞こえてき た。


どうやら、イノシシの群れがルート近くに居たらしい。


しかし、視界に入らなかったし疲れきっていたので、カメラを取り上げることすらしなかった。


そして、このルートでも川床を通過するポイントが登場した。


先ほどと同じように対岸のどこかにオレンジのマークが付けられているんじゃないかと探したのだが、今度はさっぱり見つからなかった。


川床に降りるすこし前の地点にはやはりオレンジのマークが付いていたので、川床に降りるところまでは間違いないはずである。


マークの重要性は十分理解していたので、対岸側のマークをかなり真剣に探したのだが、公園の管理者によって気まぐれに付けられているのか、ここではさっぱ り見つからなかった。



仕方なしに川床を移動しながらマークと踏み分け跡を探しはじめた。


しかし、どう考えても川床自体がトレッキングルートではないことはわかっていたので、あまり移動し過ぎないようには心がけた。


ほどなくこれ以上は進めないところに出てきてしまったので、結局川床に降り立ったところまで一度戻ってみた。


改めて川床に降りた付近を慎重に探すと、オレンジのマークはどこにも無いものの、なんとなく踏み分け跡みたいなルートが対岸の少し離れた急斜面に伸びてい るのが見えたので、違うかなと思いつつも、そこをよじ登って川床を抜けてみることにした。


そこからしばらく道だか獣道なんだかわからないところを歩き、ようやくはっきりルートらしいとわかるところに出た。


やれやれと思いながら少し進んだが、スマホで現在地を確認すると、どう考えても進んでる方向が違うので、結局T字路まで戻ることにした。


予想通り脇道探索は完全に徒労だったわけだが、帰り道がわからない状況でこの道も候補から外して良いということがわかったので、意味があったということに した。




しかし、である。


歩いてきた道を戻ると、何故か突然丸太橋が登場したのである。


もちろん、初めて見る丸太橋である。


いくら意識が朦朧としかけていると言っても、そのぐらいはわかる。


つい先程T字路に引き返そうと決めた場所までもう一度戻って、そこから帰り道を丁寧にトレースしてみたが、この丸太橋に続く道しか無い。


この丸太橋を超えて先に行くと、いったいどこに出るのかさっぱり想像がつかない。


いったい、全体どうなってるんだ!?


また、ロストしたのか?


・・・・


あ、そっか、さっき川床から踏み分け跡を適当に歩いて来たんだった。



て、ことはあの踏み分け跡を戻れば良いのか。



ということで、今度は引き返し地点から丸太橋の間で踏み分け跡を探したのだが、それっぽいものが複数あって、「これだ!」という道が見つけられなかった。


あの適当歩きを逆向きに正確に進むのは、ちょっと不可能そうである。


T字路への引き返し地点に戻ったり、丸太橋の様子を見たり、自分が歩いてきた踏み分け跡を探したりとしばらく付近を右往左往した。


確実にT字路に戻るのなら踏み分け跡を方向感覚を頼りに進んで川床の通過ポイントを探すというのが良さそうな気がするのだが、つい先ほどルート外れから死 の恐怖を味わったばかりなので、なかなか決断できなかった。



また、ロストか・・・


手元にあるのは水とパスポートぐらい。


さて、どうするか・・・


しばらく悩んだ末、方向感覚適当歩きは最後の手段にして、一度丸太橋を渡って様子を見てみることにした。




丸太橋を落ちないように越えてしばらく先に進むと、なんか見覚えのある景色が見えてきた。


先ほど何度も通過方法を探した川床だった。


なんのことはない、どうやら先ほど自分は正規のルートから(なぜか)外れて川床に降りてしまい、正しくは丸太橋で渡るところを、川を強引に渡って踏み分け 跡に入ってしまっただけのようであった。



そりゃぁ、帰り道が見つけられないわけだ。



いやぁ、しっかし助かった。



いや、まだ助かってはいないのか・・・



まずは小屋に戻ろう。

その後、しばらく歩いてようやくザックを置いたT字路のところに戻ってきた。



空身の往復だったにもかかわらず既にクタクタに疲れていたので、再び大の字になって倒れた。


本日、このT字路で倒れるのだけでも3回目である。


幸い水だけはたっぷりあるので、川水なので多少躊躇しながらも、結局飲みたいだけ飲んでしまった。


大の字になって空を見上げていると、大きな羽音を立てて翼長2mはあるんじゃないかという大きな鳥が2匹飛んで来て、高い木の枝に停まって「ギャー ギャー」鳴いてるのが聞こえてきた。


この時は名前が思い出せなかったのだが、、去年インドネシアのジャングルで見たサイチョウの仲間だった。


相変わらずカメラを向けることもなく、大きな鳥が居る方向を見上げたまま30分ほど休んだ。



さて、そろそろ小屋に戻るかと重たいザックを背負うと、再び歩き始めた。



この状況だと本日中に村に戻るのは無理な気がするので、もう一晩小屋で過ごすことになりそうである。


まぁ、小屋泊なら野宿よりはマシだし、もしかしたら他の観光客が小屋に来るかもしれないし、と、自分を励ましながら歩いて行った。




というか、このまま帰り道がわからなくて、次に小屋に宿泊に来る人が1週間後とかだったら、それまで生きてられるんだろうか?


いや、まだ帰り道がわからないと決まったわけじゃないんだから、弱気になるのは止めよう。



そんな堂々巡りの思いにとらわれ続けた。
 


そして、先ほど死ぬ思いをした巨大な倒木の場所は、帰りもやはり恐ろしい場所だった


藪を迂回しながらこのまま道に戻れなかったらどうしようと何度も考えながら前に進み、なんとか道が見えた時は心底嬉しかった。



そこからは、歩きやすい整備された道を進み、再び小屋まで戻ってきた。







本日、小屋に入るのはこれで4度目である。



やはり、路上に居るよりも、小屋に居るほうが少しは安心できる。



まずは、しばらくベッドの上で大の字休憩を取った。


それから帰るための作戦を考えた。



まずは一度昨日ビバークした場所まで戻ってみることにした。



倒木の多い川床を歩かなければならないのでザックは小屋に残して出発し、広場を抜けて川床の道を探してみた。

しかし、川自体は簡単に見つけられるものの、それが今朝歩いてきた川かどうか既に記憶が曖昧で自信が持てず、迷子になるのが怖くて結局たいした探索もせず に小屋に戻ってきてしまった。



もう一度仕切りなおしである。




今日は昨日と比べてたいした距離は歩いていないのだが、少し歩いてはぶっ倒れてばかりで時間が過ぎ去ってしまい、既に16時近くになっていた。


クアラトレンガヌ村まで1時間弱かかることを考えると、何か試すとしても次が最後のチャンスになりそうである。



さて、どうしたもんか。


思いつく戻り方は全て試してしまった。


そう思うと、やっぱり村に帰れないんじゃないか、数日間誰もここに来ないんじゃないかとネガティブな考えが頭に浮かんで来るのを必死で振り払った。


小屋から帰れないなんて、いくらなんでもそんな訳は無いのである。



ベッドに仰向けになり、心を落ち着けて今一度冷静に次の手を考えてみることにした。







インフォメーション・センターでもらった地図はまったくあてにならないが、ここから南方向に向かって村に向かう道があるはずである。


小屋から続く2本の道の1本は南西方向に続いている。









普通に考えればこの道が正解のはずだが、実際に探索してみたら結局最終的にクアラタハンに戻る道(山コース)だった。
(写真で左に伸びる道)



もう一本は北西に伸びている道で、数百メートル先に看板が出ていて逆方向が村だと書いてあったので、これはたぶん登山道で間違いない。(写真で右上に伸び る道)




それ以外に広場の周囲含めて小屋付近に道は無いはず。



昨日、最後に確認したオレンジのマークは川床のジャンクションみたいな所にあったけど、そのジャンクションがありそうだと思える方向は自分の方向感覚では 小屋の北方向になる。


だから最初に登山道に行ってしまった。


でも、ここから北に進むというのは、村に向かうのならあり得ない。


いや、もしかしたら道が蛇行していて小屋から北方向に進むのが正解なのかもしれない。



でも、やっぱり可能性は低いので探索するにしても後回しにしよう。



それよりも何よりも、昨日の夕方に小屋まで200mという看板を見たんだから、半径200m以内のどこかに必ずあの看板があるはずである。



まずは、あの看板を徹底的に探そう。



となると、もらった地図を参考にして良いのかどうかはわからないけど、方角は南西方面からだな。
 


最初に南西方向へ続く山ルートの道をゆっくり200mだけ歩いてみて、南方向に続く道との分岐や看板を見落としてなかったか丁寧に探してみるか。



何も無ければ次は北西の道。



それでも無ければ、半径200mに絞ってジャングルを徹底的に探索。


小屋の位置にピンを打っておけば、最悪ロストしても小屋には帰ってこれる。



よし、そうしよう!




そう決めると、ザックは再び小屋に残したまま、最後に歩いた山ルートと思われる南西方向へ続く道を歩き始めた。



いやぁ、しかしGoogleマップをオフラインで使えるようにしておいて本当に良かった!


少なくとも正確な方角と現在地さえわかれば、村に帰るための大きなヒントになる。


これが無かったら、今頃途方に暮れてただろうな。。。



山ルートから左に分岐する道がないかゆっくりと探しながら歩くと、小屋から30mほど進んだところでちょっとした踏み分け跡があるのを発見した。


しかし、その踏み分け跡には行かせないようにするかのように、メインルート右脇の木にはオレンジのマークが目立つ位置に付けられていた。


普通こういう場合は踏み分け跡など見向きもせずにメインルートを直進するシーンである。


しかし、今は左に別れる分岐を探している最中だったので、メインルートのオレンジマークはひとまず無視して踏み分け跡を進んでみることにした。



分岐から踏み分け跡を数m進むと、道が灌木のブッシュの中に消えていたので、「やっぱりここは違うのか・・・」と、引き返そうと思ったのだが、ブッシュと 言ってもそれほどのものでもなかったのでそのまま突っ切ってみた。



するとブッシュを越えたところで突然視界が大きく開けた。



そして、そこには見覚えのある景色が広がっていた。



なんと、そこは昨日迷う起点となった川床のジャンクションだった!




やったーーーー、ついに帰る道を見つけた!!



昨日「この道は違う」と判断して引き返すことに決めたブッシュを、今反対から越えてきたのである。


嬉しいやら、自分のこれまでの数々の判断ミスに呆れるやら、なんとも複雑な感情が一気に湧き上がってきたが、もう時間に余裕が無いので急いで小屋に戻ると ザックを背負って川床ジャンクションまで再び戻ってきた。



今度こそクアラトレンガヌに行くぞ!



そしてコーラでも飲んで休憩した後に船に乗ってクアラタハンに帰るのだ!



そう内心でつぶやくと、昨日歩いた道を戻り始めた。



そのまま道なりに少し進むと、つい先程見たのとよく似た倒木(頑張って跨げば超えられるレベル)が登場した。



あれ? これってクアラタハンに続く道(山コース)にあった倒木じゃなかったっけ?



いや、こんな倒木はなかったか?



でも、やっぱり見覚えあるような無いような・・・



予想していなかった展開に一瞬パニックになりかけたが、川床ジャンクションまで戻って慎重に周囲を見渡すと、今歩いた道の脇の斜面に別の道が伸びているの が目に入った。



そうか!そう言えば昨日の夕方はここの坂を下って川床に降りて来たんだった。



しかし、この辺りは一体どういうふうに道と道がつながってるんだろう


まぁ、いいや、事実確認は。



とにかくまずはクアラトレンガヌ村に行こう。







途中、「小屋まで200m」の看板と、どちらに進むのかよくわからなかった「分岐」にあった倒れた看板を証拠写真に撮っておこうと思って軽く探しながら歩 いたのだが、何故か両方共見つけられないまま、わかりやすい分岐のところまで戻ってきてしまった。(これを直進すると山コースのはずなのだが?)



うむ、見つけられなかったのは仕方がない、とにかく帰ろう!



と、意気揚々と歩き始めたのだが、コースタイムでたった45分の道のりなのに、一気に歩き切ることができずにもう一度大の字で倒れた。



どうせ誰も来ないだろうと道の真中で30分ほど休んだ。







川で汲んだ水、かなり綺麗に見えるけど、どうなんだろう?



後で下痢にならなきゃいいけど。









腕の傷、さらに増えたなぁ。


(でかい傷跡は帰国後も未だ消えず)












ひぃこら歩いてクアラトレンガヌ村とブンブンクンバンとクアラタハンの三叉路まで戻ってきた。


村まであと5分ぐらいかな。




遠くから船のエンジン音も聞こえてきた。




よし、あと少しだ!


昨日はあんなに邪魔に感じたエンジン音が今日はものすごく嬉しく感じるのは、我ながら現金なものである。







橋が登場した。



さぁ、いよいよ着くぞ!













やったぁ、ついに到着した!



と、喜んだのもつかの間、売店でもあるのかと思っていた村はそこにはなく、鍵の掛かった無人の小屋が一軒と東屋が一箇所、そして20mほど下を流れる川に は誰も居ない船着場がポツンとあるだけだった。



なんてこったい、ここは村じゃなくてただの船着場だったのか・・・・



確か、誰かのブログに村があるって書いてあったような気がしたんだけどなぁ。



しかも、営業が終わったのか誰も居ないし。



つい5分前に聞こえたエンジン音、あれが今日最後の船だったのだろうか?



しまったなぁ、そうとわかっていれば倒れている時間をあと10分短くして根性で歩いてきたのに。。。


いや、無理だったか。



はぁ・・・



「助かった、今度こそ帰れる!」という安堵感、「もう歩きたくない」という疲労感、「もう歩かなくても良い」という嬉しさ、「でも、今すぐには帰れな い、、、」という残念感がいろいろ混ざった状態のまま、トボトボと東屋に向かった。



東屋の床は板張りになっていて寝るにはもってこいの場所なのだが、鳥か何かの糞であちらこちらが汚れていて、なかなかそのまま大の字で寝られる場所が無 かったので、ひとまず糞を避けるように座って過ごしていた。



まぁ、寝るときはレジャーシートを敷けば良いか。



と、そのまま何をするでもなく5分ほど東屋で過ごしていると、「ポンポンポンポン」というエンジン音が遠くから聞こえてきた。



よし、船が来るぞ!



と、喜んだのだが、よくよく船着場を東屋から見下してみると、川の本流から外れた支流の入江みたいな場所に位置しているので、もしかしたら私の存在に気が 付かずにそのまま行ってしまいそうな立地なのである。



船に気がついてもらえるよう、通りすぎてしまいそうになったら大声で叫ぶことに決めた。




やる気満々で目立つ場所に立ち、本流方面を凝視していると、船が視界に現れる少し前から空が急に真っ黒になり、雨がポツポツと降って来た。








そして、船は私が大声を出して呼ぶまでもなく、まっすぐ入江に入ってきた。



よし、あの船で帰れるかもしれない!



そう思いながら、体いっぱい思いっきり手を振ったら、船に乗っていた白人男性が手を振り返してくれた。





船が船着場に到着すると同時にスコールが勢い良く降り始め、乗っていた二人が東屋に駆け込んできたので、どうやら雨宿りでこちらに逃げてきたのだと理解し た。


駆け込んできたのは現地人の船頭のおじさんと、若い白人男性だった。


話を聞いてみると、彼は2ヶ月休暇中のドイツ人で、今日は釣りを楽しむために船と船頭をチャーターして楽しんでいたのだが、雨雲が来たので、緊急避難でこ こに逃げてきたのだとか。



今日の釣りはこれで終了してクアラタハンに戻るということで、恐る恐る一緒に乗せてもらえないかお願いすると、気持よく快諾してもらえた。




やったー!




と、喜んでいたのだが、ふと周囲を見るとスコールで隣の無人小屋の屋根から水がザバザバ流れているのが目に入った。

それが川の水よりは清潔そうに見えて、南アルプスでビバークした時も飲んだ実績もあるし、ペットボトルに汲んでゴクゴク飲みたい衝動に駆られたのだが、小 綺麗で清潔感あふれる白人の前でそんな野蛮なことは出来ないし、今度こそクアラタハンで冷たいコーラが飲めることが確実なので、ここはぐっと我慢してこら えた。


と、言っても既に服もズボンも棘でやられて綻びだらけ、腕や首筋は傷だらけ、靴下も靴やズボンだけでなく頭まで泥だらけ、体はめちゃくちゃ汗臭いので、先 進国に済んでる文明人にはとても見えない状況ではあるのだが。




その後、30分ほどでスコールが止んだので、ぼちぼち出発することになった。








船が走り始めると心地よい風が頬をなで、適度な揺れが体を揺らし、景色は勝手に後ろに過ぎ去っていくのだった。



今までの苦労とは別次元の、なんともまぁ快適な船旅なのである。




支流の入江から狭い水路を通って本流に出ようとしたところで後方から何やら大声で叫んでいる声が聞こえてきた



船着場の方を振り返ると6人ぐらいの若い白人男女と現地人ガイドが、こちらに向かって手を振っていた。



船頭と現地人ガイドが何やら現地語で大声で会話をしていたが、船はそのまま引き返して一度港に戻ることになったらしかった。








なんでも彼らは近所でキャンプする予定だったが(地図によるとクアラトレンガヌにキャンプサイトがあるらしい)、女性の一人が「もう帰りたい!」と言い始 めたので、急遽キャンプを取りやめてクアラタハンに帰ることになったんだとか。


あと1分到着が遅かったらこの船に乗れなかったと思うのだが、なんともまぁ、ラッキーな人達である。


と、45分ほど前に到着していた先輩の私は思うのであった。










というわけで、最初は自分含めて3人しか乗っていなかったのでゆったりと座れていたのに、彼らが乗り込んできた来たことで横の席にも体のでかい白人男性が 座ることになり、小さな船は狭苦しいことこの上なしである。

(ドイツ人だけは船頭の采配で一人っきりで座っていた。当たり前であるが)


しかも、前の席の人がタバコを吸いはじめたので、せっかくのジャングル船旅気分が台無しである。
(子どもの頃から親がタバコを吸ってたのと、自分も1年ほど吸ってたことがあるので、タバコの臭いそのものは嫌いじゃないけど、このシチュエーションにタ バコの臭いは合わない)











景色は良いのになぁ。



まぁ、贅沢を言ってる場合じゃないか。



船は昨日8時間ぐらいかけた道のりを30分ほどで走りきり、クアラタハンの村側の港に到着した。



もし、国立公園側に到着したらインフォメーションセンターに顔を出して自分が無事に帰ったことを報告しようかと思っていたのだが、まぁ、ゴミを残していく ような二人だから遭難届けなんか出されてないだろうと考えて、そのまま帰ることにした。


船頭のおじさんが何も言ってこなかったので、船代を払わないことも可能そうな雰囲気だったが、(たぶん後から乗ってきた6人組は払ってない)一応自分から 確認をとって正規の料金を支払っておいた。(たしか数百円ぐらい)



もう疲れたので村の宿に宿泊しようかと思ったのだが、唯一遅い時間まで営業していた旅行代理店で確認を取ると、まったく空きがないとのこと。



たしか、ジェラントートに戻る途中にも数軒宿があったはずなので、そこで探すことにして、、、








まずは売店でコーラを買って、一気飲みした。



実に旨い!



本当に美味しい!



まさに命の水である。



まぁ、こんな状態にならなきゃ、コーラがここまで旨いって思わないだろうな、普通。



その後、駐車場に停めておいた車を確認すると、盗難にあった形跡は微塵もなく、こんなことなら荷物を全部背負わなければよかったと思いつつ、ザックを車に 無造作に放り込んで靴と靴下を履き替えた。


靴下を脱ぐと、小石でも中に入ってたのかと思っていた痛みは、すべて靴ずれや血豆だった。


腕も首周りも泥と傷でひどい状態である。


何よりショックだったのは、あまりにも今更な話だが、買ったばかりのアディダスのポロシャツ(ブランド名が付いてる分、無駄に高い)が棘でボロボロになっ てしまっていたことだった。


こんなことなら、安物のボロボロのシャツを着て歩けばよかった・・・



それはともかく、なんか、擦り傷に泥がいっぱい着いちゃったけど、破傷風とか大丈夫なんだろうか?


一応予防接種は子どもの頃に受けてたはずだけど。



気になったのでスマホで破傷風を調べてみると、、、




なんか、30歳超えると、わりとマズイんじゃないか、これ!?




ということで、泥(土)が着いた後からでも対処が間に合うらしいので、ジェラントゥートの街の病院で破傷風のワクチンを打ってもらうことにした。



車を走らせつつ村付近の道路沿いのレストランに立ち寄ってみたが、時間が遅かったらしく、すべて閉まっている状態だった。


まずは電波が繋がるうちに、一昨日停めさせてもらったホームステイのおじさんに電話をかけ、今日も停めてほしいとお願いしたら快諾してもらえた。


道路脇に豪快に放牧されている牛に警戒しつつ車を走らせること1時間ほどでホームステイのあるジェラントゥートの街に到着。



レストランを改めて探すのも面倒くさかったので、一昨日食べたのと同じ食堂で夕食を食べた。







下痢対策としてコンビニでヤクルトを2本買って一気飲み。


まぁ、おまじないみたいなもんである。


ホームステイのおじさんに電話をかけて宿まで来てもらい(今回は奥様も一緒にいらっしゃった)、鍵を受け取るときに腕の傷を見せて、「破傷風が怖いので病 院に行きたい」と伝えて場所を尋ねると、地元の病院まで自身の車で前を走ってわざわざ案内してくれた。








そこで、受付処理から何から私の代わりにおじさんがやってくれ、言葉の通じない状況でどうなるかと思っていたが、問題なく注射を打ってもらえることになっ た。

海外の病院は日本のそれとはいろいろシステムが違うので、これは本当に助かった。



違う種類の注射をされたら嫌なので、出会うスタッフ全てに「テタナス(破傷風)、トキソイド(ワクチン)!」という2つの単語だけを終始連呼していたのだ が、いざベッドに乗せられると「ATT」というのを打つと言うのでスマホでATTが何かを調べようとしたら、年配の女性の先生がアルコールで手早く消毒を 行って注射器を振り上げると、私の「ちょっと待って!」というセリフを言う前に、「トラストミー!」と言いながら、ブスッと腕に針を突き刺したのだった。

(ATT → Anti-Tetanus Toxoid)





以下、後日談。










翌朝、おじさんが宿まで再び来てくれたので鍵を返し(前回は鍵をポストに入れて返却するパターンだった)、朝飯を食べに食堂に連れて行ってくれた。(とい うか、ごちそうになってしまった)


おじさんには、お礼も兼ねてちょっと高めのチップを含む宿賃を払ってから別れた。

(その後、フェースブックの友だち申請が来たので、今でもおじさんの私生活が垣間見れる状態が続いている)



予定をちゃんと把握していなかったので、明後日からだと思っていたダイビングの開始日は実は明日からだと昨晩気が付き、今日中にレダン島に渡らなければダ メだということで、高速道路をひたすら走って港町へ向かった。


昨日、もしクアラタハンまで帰ってこれなかったら間に合わなかったので、かなりラッキーだった。


高速を快調に走り、ひとまず1時間余裕のある状態でメランという小さな町の港に着いたのだが、なんか様子が変なのである。


島のリゾート施設がチャーターしている船はあるのだが、パブリックのフェリーが見当たらないのである。(チャーター船は料金が3倍ぐらいする)


その辺に立っていた客引きに聞いても「フェリーなんて知らない」という答えしか返ってこない。


Googleマップには、ちゃんとフェリーの航路を示す点線が島から現在地に伸びてるし、リゾート行きのチャーター船は停泊してるし・・・


まさか客引きがチャーター船に引き込むために、嘘ついてパブリックフェリーなんて知らないって言ってる?


いや、さすがにそれは無いだろう。


念のため、パブリックフェリーの港の場所を確認してみたところ、実は30分ほど前に通過した別の街(トレンガヌ)にあることが今更判明した。

顔から血の気が引くのを感じつつ、詳しく調べている時間がないので、慌てて車に飛び乗り、まずはその街に向かって走り始めた。


Googleマップにはなぜかパブリックフェリーの港が登録されておらず(登録されていたら、最初からそこに行ったわけだが)、街のどこに行けば港がある のかさっぱりわからない。


さすがに目的地もわからず走り続けるわけにはいかないので、車を道路脇に停めてスマホでフェリーの公式ページを見てみた。

それによると、港は宮殿の側だと書いてあったが、Googleマップにはそこに港らしきものは見当たらなかった。

一方、どこかの誰かが「ここに港がある」とGoogleマップに登録している場所があって、宮殿からは少し離れているのだが、遠いというほどでもなかった ので、まずはその情報を信じることにして、目的地設定した。



こんな時に限って道路の交通量が多く、普段は80kmで流れる一般道はさっぱりペースが上がらず、赤信号で止まる度に無常にも1分、2分と時間が過ぎてい くので、気持ちばかり焦ってしまった。



これでフェリーに間に合わなかたら、せっかく昨日クアラタハンに戻れたのもパーである。



Googleマップに誰かが登録していた場所になんとか出港の20分前に到着したのだが、ここは見事に間違いで、港ではなくホテルが建っていた。


入り口前に車を停めてボーイさんに港の場所を訪ねると、やはり宮殿方面だと言うので、最初からそちらに行けばよかったと後悔しつつ車に飛び乗って走らせ た。



そして、宮殿近くの海沿いの道を走ると、なんとなくそれっぽい施設の入口があったので、近くに車を停めて入り口に立っていた経警備員のおじさんに尋ねてみ ると、やはりここが港だとのこと。

よし!、見つけた。


が、今度は駐車場が満車とのこと!


どこかに駐車場がないか訪ねてみたが、お互いに英語が苦手なので会話にならない。



諦めて車に戻ると、付近の駐車場を探し始めた。



1時間ぐらい停められるコインパーキングはあるのだが、何日も停められそうなパーキングがちっとも無いのである。



そのまま駐車場を探しながら、渋滞する街をぐるぐる走り回った。




あぁぁぁ、もう無理か・・・









と、思いかけたところで、なんとか駐められそうな場所を見つけ、管理してるおじさんに確認すると、3日間停めてもOKとのこと。


よし!


チケットを貰ってダッシュボードに置き(後払い)、ダイビングに行くための荷物(ジャングルトレッキング用以外全て)を両脇に抱えて、港に向かってダッ シュした。










船の出港10分前にチケットカウンターに到着し、なんとかチケットと国立公園の入園チケットをゲットした。




いやぁ、しっかし、最後は絶対間に合わないと思ったよ!


(船自体は定時より少し遅れて出港したので、座席は選べなかったが乗ること自体は実は少し余裕があった)



船に乗っているのは意外にもマレーシアの人が多い印象だった。


もっと、外人のリゾート客が多いのかと思っていたのだが。




さて、今回予約を入れていたのは、男一人で泊まるのには場違いな、わりと良い感じのリゾート。









一昨日のジャングル野宿とはえらい違うゴージャスな部屋。



もちろんエアコン完備。


水飲み放題、飯食い放題。(ただし、お値段は少々お高い)


こんな一人旅もこれが最後と奮発してみたのだ。


よかった、キャンセルにならなくって。








目の前は美しいビーチ。











そして、すばらしいダイビングポイント。


(ダイビング目的だったら、レダン島の東側のダイビングに特化した宿泊施設のほうが何かと良さそう)




2泊3日のリゾートライフを満喫した。




恐れていた下痢も発症しなかった。




ヤクルト2本のおかげか?







その後、再びクアラルンプールに戻り、、、











ちょっとだけ観光してから、日本に帰国したのだった。




おしまい!