ケニアドライブ旅行記
その31
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1月6日(日)(10日目)
                                (旅の折り返し地点)




小さなミントスハットの中に大人が7人も寝ていて、入り口の扉もちゃんと閉められていたのですが、さすが標高4300m、かなり冷え込みます。



秋の北アルプスでぎりぎりのセット(オールシーズンシュラフにダウンジャケットフル装備のコンビ)で、ここでもギリギリでした。

エリックもシュラフに芋虫みたいに中に潜り込んだまま身動き一つしません。


時計を見たら2時を回っていたのでエリックの肩を揺らして起こしたところ、シュラフから顔を出して携帯電話で時間を確認し、


「3時に出発すれば間に合うよ・・・」


と、まだ寝たそうに言うので、「そうなんだ」と思いつつ、逆にのんびり朝食の準備をすることにしました。

幸いアルコールバーナーは静かにお湯を沸かせるので、こういう時に便利です。


いつもどおりのスパゲティを指定時間の3倍ぐらい茹で(生スパゲティなので、それでも5分茹でぐらいですが)、無理やり腹に押しこみました。

あとは昨日の夜に頂いたチャパティや茹で汁で作ったココア、マルチビタミン剤も口の中に放り込んで燃料補給は完璧です。


寝たら高山病の症状が出るんじゃないかと心配していたのですが、そんなこともなく一安心。


2時15分過ぎにエリックも起き、ポーターさん達も朝食の準備を始めたので、私も本格的にパッキングを済ませます。



そして、今朝もポーターさんたちから紅茶を頂いてしまいました。皆さんとても親切です。


旅に出ると便秘気味になることが多いんですが、この旅はかなり快調で、今日も朝からなんとなく呼ばれた気がしたのですが、ひとまず小さい方だけしておきました。


あれやこれやとしているうちに3時を少し回った所で、いよいよケニア山山頂(レナナピーク)に向けて出発です。


満天の星空を期待してたんですが、今日も普通の星空。

そういえば今朝も含めてケニアに来てまだ一度も天の川を見てないんですよね。


ケニアに来た頃は満月に近いタイミングだったのでしょうがなかったのですが、そろそろ新月に向かってるはずです。

ケニアといえども案外見られないもんです。








ヘッデンの明かりを頼りに歩いていきます。(3:10)

道自体は悪くはないのですが、ところどころ泥濘んでいたりするので慎重にエリックの足取りを追います。











直径50cmから1mぐらいの岩が転がっているのが見え始め、いよいよ本格的な登りが始まりました。


先導のエリックがかなりゆっくり歩いてくれているので、まだ辛くはありません。



しかし、ここで本格的な便意が・・・・

しまった、こんなことなら小屋で済ませておけばよかったのですが、時既に遅し。


もしかしたら川の水に当たったかもしれません。


幸いウエストポーチに下痢止めストッパーを入れていたのでそれを飲んだら落ち着きました。

良かった良かった。


しかし、実はこれはまだほんの序の口に過ぎない話で、きっちり1週間後にさらに酷い目に遭うのですが、そんなことはまったく知りませんでした。


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ケニア山を登る予定の方でこのブログを読んでる方々へ、前日編でも少し書きましたが胃腸の鍛えられてない日本人はケニア山はガイドブックに書かれていたり現地人のアドバイスによる Tarns(山湖、水たまり)だけでなく、飲んで大丈夫だよと言われている川の水もそのまま飲んじゃダメだと思います。私が帰国ぐらいのタイミングで発症 し たのは、症例を振り返るとたぶんジアルジアだと思われます。
たまたまこれを書いてる最中に群馬で騒ぎになったお陰で症状に心当たりがあって気が付きました。

というか、海外では地表水(川とか沼の水、湧き水を除く)はほぼ全滅に近い勢いだということも今更知りました。
汚水用のフィルターや煮沸用の燃料も持って行ってたんですが、そんなことも知らずにがぶがぶ飲んでましたが、(同様に飲めると言われている)パタゴニアで も見事に当たりましたし、今後は慎重に飲まないとダメですね。。。
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本編に戻します。







本日宿泊のシプトンズキャンプとの分岐が現れたので、ここにザックを置いて頂上に行けるのかと喜んだのですが、我々が荷物を置く分岐はまだ先とのこと。


完全にぬか喜びでした。








山頂が近づきいろいろなルートが合流してきているらしく、他の小屋から登って来た登山者の団体に前を塞がれます。



エリックも遅いパーティを抜かそうとしませんし、前のパーティも抜かせてくれないので、しばらくそのペースで登っていきます。


彼らは空荷なのですが、たぶん登山慣れしてないのか高山病にかかっているのか登るのがえらい辛そうで、我々の半分ぐらいのペースで、やっとのことで登っている感じ です。


そりゃぁ、普段山登りしてない観光客がいきなり5000m近い高峰にチャレンジしたらそうなりますよね。

標高3776mの富士山ですらそんな感じでしたし。









足元に雪がちらほらと出現し始めました。


高校生の頃に買った雑学の本に「赤道直下で凍死?」みたいなネタがあって、「アフリカには赤道直下に高山があって、そこには氷河もある し、たまに遭難者が凍死する」という内容が書かれていたのを思い出しました。

まさか、実際に自分がそこに訪れることになるとは当時は夢にも思わなかったのですが。
(アフリカ赤道直下の高山なんて探検の世界だと思ってました)




しばらく行った所で先ほどのパーティが前に行かせてくれました。








抜いた地点から少し登ったところがシプトンズキャンプとの分岐地点でした。(5:25)


徐々に昇りつつある太陽の光で巨大な岩と雪の壁が正面に微かにではありますが大迫力で見えているのがわかります。



出発してから2時間ちょい、ここで少し休憩を取るみたいです。



早速小屋で沸かしてテルモス(魔法瓶)に入れて持ってきた熱湯をすすります。

これ、登山小説とかで読んで以来、一度やってみたかったんですよね!

う〜ん、体が暖まって最高!

気分は厳冬期の北アルプスかヒマラヤアタックです。


もちろんエリックにも分けてあげました。

旅行や登山では本当にテルモス(魔法瓶)が大活躍するということがよくわかりました。



気温はどんなもんだろうとウエストポーチに入れていた温度計で確認すると3度。

この標高にしては意外に下がってないですね。




荷物を置いて小休止中に景色を撮影していたら(超スローシャッターなので何度も失敗)再び先ほどのパーティに追い抜かされてしまいました。。。


ザックの中から予め準備しておいた山頂に持っていく最低限の装備(テルモスとか行動食など)を入れたアタック用のザック(カモシカメンバーズバック)を背負い、エリックに、


「トエンデー!」


と、声をかけます。
(スワヒリ語のTwendeni、「行きましょう」の意味。何度も聞いた台詞なのでさすがに覚えて私もこの日から使ってました)




いや〜、さすがにザックを置いちゃえば楽ちんです!








ここまでは一心不乱に足元だけを見つめて登ってきたのですが、山頂直下の急斜面を巻きながら登っている時に空が明るくなり始めていたことに気が付きました。



山頂まであと何分かかるのかわからないのですが、日の出に間に合うのでしょうか?











とは言え、すでに4700〜4800mぐらいの標高に達しているはずなので、急いで登れるわけではありません。


硬くなった雪をザクザクと踏みしめながら、一歩ずつ登っていきます。









しかし、内心では空がどんどん明るくなってきてるので焦ってます、、、

あとはエリックのペース配分を信じるのみ。









信じてはいるんですが、、、えーっと、信じていいんですよね?



ここで、前を歩いていたパーティの一人が高山病でダウンしたとのことでガイドが付き添って介抱していたのですが、残りのメンバーが先に進めず道連れになって いたのをエリックが彼らも引き受けて登ることになりました。(スワヒリ語でガイド同士で会話していたので、そんな話をしたんだと思います)


というわけで、エリックを先頭にそのすぐ後ろに私、さらにその後ろにまだ元気なメンバーがくっついて登っていくことになりました。








確かにここからちょっとした岩場になるので、ガイドが居ないと簡単にロストすると思います。

(日本の山みたいにご親切に◯×マークがペンキで塗られていたりはしません)

ワイヤーが張られている場所もありましたが、北アルプスの穂高に比べればたいしたことは無い難易度です。
(ルートを間違えたときはその限りではありませんし、ガイド無しで登って年間数名の方が遭難されるそうです)










ぐんぐん明るくなってきて、外界も見渡せるようになって来たのでヘッデンは消しました。



ここでエリックが「少し休憩しよう」と言いながら岩に腰を掛け、あまりに心配になったので「このペースで登って山頂から朝日が昇るの を眺められるんだよね?」と確認すると、「もちろん!」と答えると同時に「よし、行こうか!」と立ち上がって歩きはじめたエリックを見て、「やっぱ りギリギリなんだ」と内心で笑いました。









ようやく山頂が見えて来ました。

喜びの気持ちが心の奥底から沸き上がってきます。









マイナーなチョゴリアルートを歩いたのでなかなか想像できなかったんですが、たくさんの登山者が山頂を目指していたようです。

(と、思ったのですが我々より先に山頂に到着したのは写真に写ってる2人+ガイドさんだけでした)









最後はこんなハシゴがありました。











山頂に到着!(6:20)


もう、今まさに太陽が登ろうとしてます。

あと2分遅かったらアウトでした。









まずは山頂標識のところに登ります。


これでケニア山のレナナピークに到着です!











エリックが教えてくれたのですが、あの水平線に浮かぶ小さなお皿をひっくり返したような出っ張りはアフリカ最高峰のキリマンジャロだそうです。











そして、太陽が登って来ました。

(キリマンジャロを見ていて、まさに昇る瞬間を見逃しました(笑))











ご来光〜!












どうか2013年も良い年になりますように!











振り向くとネリアンピーク(5188m)が太陽光線を浴びて輝いているのが見えます。

たぶんその向こうにはケニア山最高地点のバチアンピーク(5199m)があるはずです。


両地点ともロッククライミングの技術がないと登れず、エリックも一度も登ったことがないとか。


というわけで、3ピークあるケニア山の中でレナナピークは一番低い(4985m)地点なのです。
(これで「ケニア山に登った!」と言うのもどうかとは思いますが、私は山頂ゲッターではないので、そこにこだわりはありません)











せっかくなので、ここでエリックに頼んで記念撮影を1枚。



写真に写ってる通りアタック用のザック(カモシカメンバーズバック)にいろいろ入れて行きましたが、結局テルモスぐらいしか使いませんでした。



エリックいわく今日はとても温かい日だとか。(気温マイナス1度)


ただ、薄っぺらい登山靴もどきで雪の上を歩いてきたからか足先はちょっと冷たい感じがします。








日の出に間に合ったのは先行の3人と我々2人、そのペースに付いてこれた別パーティの3人ぐらい。

他の方は日本人みたいにご来光に対するこ だわりが無いのか、ペースが上がらず間に合わなかったのか、日が昇ってから続々と到着する感じでした。


それでも思っていたよりは少ない気がします。









皆さん思い思いに記念撮影をされて登頂の喜びを噛み締めていました。











改めて山頂からの眺めを楽しんでみます。
(メル方面)










ケニア山は単独峰なので、ほぼ360度水平線を見渡せます。
(ナロモル方面)










たぶん、ナニュキの街も見えているんだと思います。
(ナニュキ方面)










どことなく槍ヶ岳山頂からの眺めを彷彿とさせる景色です。











前の写真と同じ尾根を引きで写したんですが、これが我々が登ってきたチョゴリアルートだと思います。

足元に青く見えているのがHall Turnでしょうか。



20分ぐらい山頂を楽しんだでしょうか。

エリックが「そろそろ降ろう」と声をかけてきたので、名残惜しくは有りましたが下ることにしました。

高山病の症状もなかったですし、そこまで寒くもなかったので、もう少し粘っても良かったなぁと後で思いました。








ケニア山最大のルイス氷河。

赤道直下の氷河です。









空荷で下りなので良いペースで下っていきます。

登ってくる人は息絶え絶えという感じで皆辛そうです。











登るときは夢中だったのと、ヘッデンの照らす範囲ぐらいしか見えてなかったのですが、意外に危ないところを歩いていたみたいです。

(GPSログで確認したら登りと下りは違うルートを歩いてました)









太陽が昇ってくると濃紺の空に覆われます。

さすが標高の高い山!

(遠くに小さくすれ違った登山者が写ってます)









サンブルでは暑くて死にそうだったのが嘘みたいな景色です。











振り返ると随分と山頂が遠のきました。


登るときにこの標高差が見えていなかったのはかえって良かったかもしれません。










分岐地点でザックを回収してからシリモンルートに入り、シプトンズキャンプ目指して下っていきます。











なるほど、シリモンルートはこの渓谷(マッキンダーズバレー)に沿って伸びるルートなんですね。











この下り、景色は素晴らしいのですが足元がザレザレで何度も滑り、しまいには2回も尻餅をつきました。

さらに滑って止まれずに3歩ぐらい駆け下った所でエリックがとっさに出してくれた手を掴んでしまうという情けない展開に。

かっちょわる〜(笑)


私とて登山者の端くれ、ザレた下り坂は慣れてるつもりなんですが、この時は為す術なく何度も浮き砂利で足を滑らせました。


その度にエリックが、


「Don't hurry in Africa.」


と、声をかけてくれるのですが、いやはや、これでも私は慎重に足を運んでいて急いでるつもりはまったくないんですけどね〜。


エリックは滑らないのに不思議なもんです。

ひとつ考えられるのはエリックはちゃんとした登山靴で私は運動靴(一応Vibramソールなんですが)という違いはあったかもしれません。



というか、だんだんそう思い始めました。

靴のせいです、きっと!



あと、日陰の石はけっこう濡れたまま凍っていて、エリックが都度都度「アイス」と言いながら指さして教えてくれるのですが、さすがにそれは見てすぐにわか るので、そういう石は踏まないように下っていきます。







大迫力の岩山がそびえていますが、見とれていると速攻で足が滑ります。

下山でこんなに大変なんだから、ここを登っていくのも相当シンドイと思います。










いや〜、下りだから簡単に終わるかと思ってましたが、けっこう甘かったです。











斜度のきつい所ではずるずる滑りながらカニ歩きで下っていきます。










ふぅ、どうやら急な下りの区間は終わったみたいです。

ちょうどこの辺りがナニュキに流れ込む川の源流域になるんだとか。











大分下ってきた所でロベリアやセネシオがたくさん生えていました。

チョゴリアルートよりも遥かに多い感じです。











このロベリアは朝方は寒くて葉を閉じてるんだそうな。

なるほど。









お〜、今日の宿泊場所のシプトンズキャンプが見えて来ました!











到着!!(8:25)

こんな時間なので我々以外のお客さんは1人しか居ません。
(話はしませんでしたが山頂アタックを諦めた人でしょうか)









昨日に引き続き、エリックが小屋のベッドで寝ることを強く勧めてきたのですが、今日は即断りました。



なんせ、、、









こんな景色のキャンプサイトですから!

私のテント、小さく写ってるのが見えますでしょうか?



いや〜、素晴らしい!




確かにここは標高4200mで夜は少し寒いかもしれませんしトイレまで外を歩かなきゃならないなど多少の不便はあるかもしれませんが、せっかく重たい思いを してテントを担ぎあげてきましたし、宿泊料金はテントのほうが安いし(小屋泊1500KSh、テン泊600KSh)、誰かのイビキに悩まされることも無いだろうし、良いこともけっこう多いのです。


支払いを済ませようと管理小屋に行くと、そこはガイドやポーターさんが宿泊する部屋も兼ねているようで、エリックもそこに居ました。

そして、誰が管理人で誰がポーターだかさっぱりわからなかったので、エリックに教えてもらい管理人さんにお金を支払いました。

すると、恒例の「お釣りがない」宣告を受けたので、お釣りは後でもらうことにします。


水は食事テーブルのところと調理場に蛇口があって、好きなだけ汲めます。

近くに源流域がありますからそこから引いているのでしょう。



さて、日没まではまだまだ時間があります。

のんびりしますか!






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本日の歩行ログです。






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